上司が何回注意しても、新卒23歳の部下が同じミスを繰り返した理由

大口の取引先を激怒させたことも…
村上 伸治 プロフィール

佑美さんがよく覚えているのは、正義さんが小学校に入学して、初めての授業参観でのこと。由美さんが楽しみに見に行ったところ、正義さんはずっと後ろにいる母親のほうを向きながら喋ったり立ち歩いたり、時には母親に向かって手を振ってきた。恥ずかしさのあまり、由美さんは顔を真っ赤にして教室を後にした。

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以上の情報から、私は正義さんが典型的な注意欠如多動性障害(ADHD)だと診断した。ADHDは(1)多動(落ち着きがない)、(2)不注意(忘れ物など)、(3)衝動性(待てない)、という3つの特徴から成る発達障害の一種で、通常その徴候は幼児期から見られる。

障害が顕著な子は小学生時代に診断されるが、顕著でない場合は成長するまで診断されないことが多い。多動はあっても成長に伴って目立たなくなったり、元々多動の症状がなかったりする患者(不注意優勢型)もいる。

学生時代は何とかなっても、社会に出て働くようになると、不注意が原因で仕事に支障をきたして、本人や上司が困る、というケースもよくある。そのため、最近は大人になってから精神科を受診する患者が増えている。

周りからの期待が彼を変えた

さて、3回目には、再び佐々木さんと上司の2人に来院してもらった。ADHDの説明と職場での彼への対応として、次のようなことを話した。

佐々木さんの症状は、基本的には持って生まれた特性なので治ることはない。そのため、頭ごなしに叱っても効果はまったくない。視力が弱い人に「よく見ろ!」と怒鳴るようなもので、努力ではどうにもならないどころか、やる気がなくなり逆効果だ。

その代わりに、難聴の人に対する補聴器のように、誰かがサポートしてあげることが重要だ。佐々木さんのような大人の発達障害を抱えた患者は、叱るのではなく、「忘れていることを教えてあげる」のが何よりも有効だろう。1回言っただけではすぐ忘れてしまうので、時間を空けて何度も確認してあげる必要がある。