安倍首相はなぜ「岸田」をあきらめ「菅」にしたのか

首相交代・深層レポート【中編】
戸坂 弘毅

安倍が「菅後継」を決心するまで

一方、安倍と麻生は6月の一連の会談で、岸田への禅譲が難しくなっているとの認識で一致していた。各種世論調査で岸田への期待は一向に高まらず、自民党内でも支持が広がっていなかったからだ。

そもそも「岸田政権」は、安倍の出身派閥である最大派閥の細田派と第2派閥の麻生派、それに第4派閥の岸田派が組めば、それだけで党内の約半数を抑えることになり、勝利はほぼ確実――という計算の上に成り立っていた。

ところが、岸田が政調会長として新型コロナ対策で脚光を浴びるはずが逆に深い傷を負い、各種の世論調査の「次の首相にふさわしい人物」でも石破に何倍もの差を付けられた。そのため、安倍の足元の細田派内でさえ、安倍や会長の細田博之が「岸田支援」を口にしても、聞こえてくるのは異論や反発の声ばかり。幹事長代行の稲田朋美に至っては、安倍に正面から反論する有様だった。

 

このままでは安倍や麻生が「岸田支持」を打ち出しても、両派内から他候補に流れる議員が相次ぐ恐れがある。そうなれば、安倍も麻生もあっという間に「過去の人」になりかねない。そもそも岸田の擁立構想は、安倍と麻生が共に嫌う石破の総裁就任を阻止するためのものだったのに、安倍批判を繰り返す石破に負ければ元も子もない。

迷走する新型コロナ対策によって低下した内閣支持率は回復せず、解散して局面を打開する見通しも立たず、八方塞がりとなった安倍。その中で安倍は「石破総裁」を阻止するためには、菅を後継にすることが最も現実的だと考え始めた。

安倍は昨秋の段階から「本人が本当にやる気になれば菅ちゃんでもいいんだ」と周辺に漏らしてきた。「(夫人の)昭恵がしきりに『次の総理は菅さんがいい』と言うんだよ」という安倍の言葉を耳にした永田町関係者も、複数存在する。

さらには、安倍と麻生の一連の会談でも「石破総裁」を阻止するための候補として菅の名前が出たという。ただその時点ではまだ、第二次安倍政権発足後、様々な局面で菅と対立してきた麻生は「菅後継」に難色を示していた。

それでも安倍は7月に入り、菅に対し「本当にやる気なら応援する」と伝えた。これに対し、昨春「令和おじさん」として国民的人気を得て以来、自らの立候補も視野に入れてきた菅も、極めて前向きな考えを示していたのだ。

安倍は、菅が「岸田後継」に反対し、自らの解散権を縛るような言動をしてきたことに強い不快感も抱いていたのだが、首相の座に就いたら安倍政権の実績をことごとく否定しかねない石破の首相就任を何としても阻止するため、次善の策として、しばらく前から「菅後継」への道筋を敷いていたのだ。