アベノミクスはなぜ成功しなかったのか? その「シンプルな理由」

根本的な「見誤り」があった
加谷 珪一 プロフィール

つまり、輸出主導型経済というのは、海外需要の増加から輸出が増え、生産力を増強するために企業が設備投資を行い、これが国内所得を増やして消費を拡大させるというメカニズムで成り立っている。外国の富を起点に、徐々に国内に落ちていくという一種のトリクルダウン経済と言ってもよいだろう。

だが、今の日本経済はそのような仕組みにはなっていない。メーカーの多くは海外に生産拠点を構え、売り上げが増えても日本国内で設備投資は行わない。国内には直接、富が落ちないので、メーカーの業績が良くなっても個人消費は拡大しないのだ。

アベノミクスで輸出が増えたとの主張もあるが、これも誤りである。輸出が増えたのは金額ベースのみで、数量ベースでは輸出は増えていない。量的緩和策による円安によって円建ての輸出金額が増えたことが原因であり、輸出数量は横ばいだった。

 

最大の課題はサービス産業の賃金

日本のGDPにおいて個人消費が占める割合はすでに6割を超えており、日本は望むと望まざるとにかかわらず、日本人自身の消費で経済を回す仕組みにシフトしている。消費主導型経済の主役となるのはサービス業であり、今ではサービス業に従事する人の方が多くなっているが、サービス業の賃金は製造業よりも圧倒的に低い。

経済の主役となっているサービス業の賃金が低く抑えられていては、消費が増えないのは当然のことである。安倍政権が注力すべきだったのは、主力産業ではなくなった輸出企業を支援することではなく、国内サービス業の生産性を向上させ、賃金を引き上げることだった。

アベノミクス後半では、生産性の向上が提唱され始めたが、あくまで長時間残業を抑制するという観点での議論であり、国内サービス業の改革というところまでは踏み込んでいなかった。日本経済に対する輸出の寄与度が小さくなっているにもかかわらず、成長戦略の多くが輸出産業支援(あるいはインバウンド支援)だったことが、最大のボタンの掛け違いである。