燃え殻さんが語る「SNS全盛の時代に、紙に書くことの意味」

自由な空間は、いまどこに…?

本で届けたかったもの

「紙の世界って、自由だなと感じています。いまSNSの空間は、みんなが大声で持論を飛ばしていて、『密』を感じることが多々あるんですが、雑誌や本の世界では、書き手と読み手が適度にディスタンスを保っている。こちらの本心もしっかりと読んだうえで理解してくださるし、『読みましたよ』という声がちょっと遠いところから届く感じがして、本当に嬉しい。改めて、本を出すことができた喜びを感じています」

エッセイが売れないといわれる時代に、異例の売れ行きを見せている本がある。「週刊SPA!」の連載をまとめた燃え殻さんの『すべて忘れてしまうから』。7月下旬に発売されて以降版を重ね、現在5刷3万部と好調だ(9月10日現在)。

発売から2ヵ月近くが経つが、いまだ売れ行きは好調
 

燃え殻さんは17年に発売された小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』が、デビュー作にして8万部超を記録した注目の書き手だ。各界にファンがおり、新著の帯には町田康氏、おかざき真里氏、玉城ティナ氏、矢部太郎氏が推薦文を寄せている。

本書の中身をひと言で説明するのは難しいが、くすりと笑ってしまうような、あるいはちょっと泣きたくなるような「忘れがたい、過去の小さなトラウマ」を掘り起こしながら、「でもみんな、こういう忘れられない小さなトラウマを抱えて生きているんだよね」と読者に優しく語りかけてくる。

ツイッター黎明期からツイートをはじめ、現在フォロワー数20万を超える燃え殻さん。そんな彼がいま、ツイッターではなく、紙で、本で届けたかったものとはなんなのか。本人に話を聞いた。

不思議で仕方がない

――燃え殻さん、お久しぶりです。デビュー作が発売された3年前にも「現代ビジネス」でお話を伺いましたが、二作目となる『すべて忘れてしまうから』も大変好調な売れ行きですね。ご自身のなかで手応えや実感はありますか。

燃え殻:本当に多くの人に手に取っていただいてありがたいかぎりなんですが、実は、こうして一冊の本が出たこと自体が、いまだに不思議で仕方がないんですよ……。というのも本書は『週刊SPA!』の連載コラムをまとめたものなんですが、当初は週刊誌の連載が続けられるかどうかも自信がなかったぐらいですから(苦笑)。

一作目の小説が発売されたあと、SPA!さんから週刊連載のお話をいただいて。とても嬉しかったんですが、僕は職業作家でもないので、仕事をしながら毎週の連載を抱えるとなると、相当大変なことになる。そんなの続けられるはずないよなあ……と思いながら、『とりあえずなんでもいいから一本だけでも書いてみませんか』という、編集者の居酒屋のキャッチみたいな軽い言葉に乗せられるなかで始まった連載なんです。

そんなフワっとした感じで生まれた連載だったので、原稿を書けなくなって落としたり、打ち切りになることもあるだろうなと覚悟していました。それは恐怖でしかないんだけど、でも始まっちゃったものは仕方ないんだから、「まあ、なにがあっても経験だよな」と考えるようにしたんです。

幸い、連載を落とすことはなかったんですが、そんな綱渡りみたいな考えではじめたものだから、まさか単行本が出るほどまで続くとは思っていませんでした。

あまり人生において教訓めいたモノを考えるタイプではないんですが、こうして単行本を眺めると、「何かをはじめるときには戸惑いやためらいがあるけれど、『なにがあっても経験だよな』と開き直って一歩踏み出すことも大事」と思いますね。