アベノミクスで「雇用と賃金」は結局どうなったのか、数字で徹底検証する

雇用は500万増、じつは実質賃金も…
飯田 泰之 プロフィール

このような資産価格の上昇に刺激されて企業の活動水準が上昇すると、それにともなって雇用が拡大する。「働く意思があり、企業が雇い入れたいと思う能力のある人材」は有限である。雇用の拡大が続くと、有限な労働力という資源を企業間で奪い合うことになるため、賃金が上昇する。筆者や周囲のエコノミストは、雇用が150万から200万人ほど増加すると労働市場での人手不足感が顕著になり、賃上げが加速すると予想していた。

2000年代の雇用拡大期から類推すると、2年から3年程度で賃上げが加速するため物価上昇も本格化する。物価の上昇が本格化すれば、将来物価の先高感から消費・投資の増加がはじまる(いわば第一の経路が働き始める)というわけだ。GDPの6割を占める個人消費が活性化すればデフレ脱却は本格的なものになる――というのが第二の経路の最終的な目標地点であった。

しかし、この最終目標が早期に達成されることはなかった。第一の論点は、「日本国内に存在する「働く意思があり、企業が雇い入れたいと思う能力のある人材」が当初予想よりもはるかに多かったことにある。もっとも、ここまで見てきたとおり、雇用そのものはアベノミクス開始から2年ほどで200万人増加し、さらには正社員の増加もはじまったが、それでもなお雇用は増え続けた。雇用の拡大が止まったのは今年になってから。人材の払底ではなくコロナショックによってであった。

国内に「働く意思があり、企業が雇い入れたいと思う能力のある人材」が予想よりも多くいたこと自体は長期的な経済成長にとっては喜ばしいことだ。しかし、その規模感を読み間違えたところがアベノミクスの誤算のひとつであることは確かだろう。

 

所得と消費のデカップリングと成長戦略

もうひとつの注目点は所得上昇に対する消費の動きの鈍さだ。2017年頃より家計の可処分所得は明らかに上昇した。これは所得上位層・下位層に共通している。「家計調査」によると2人以上勤労者世帯の可処分所得は2019年には2012年よりも12%増加した(総平均値、物価変化は考慮していない)。ちなみに、この12%増のうち5.5%が働き手の増加によるもの、6.5%が一人あたり収入の増加によるものである。

ここで、可処分所得がそれなりに上昇しているにもかかわらず、消費支出はほぼ横ばいであることに注目されたい。ここでの消費支出は金額ベースのものであるため、消費税等を考慮すると実質的な消費はむしろ減少していることがわかる。これは低所得者層を除くと各所得階層共通の特徴である(所得階層別の所得動向は「『家計調査』から見た最近の可処分所得」等を参照されたい)。