アベノミクスで「雇用と賃金」は結局どうなったのか、数字で徹底検証する

雇用は500万増、じつは実質賃金も…
飯田 泰之 プロフィール

鈍い賃上げとアベノミクスの誤算

安倍政権下での実質賃金の低下は、図3の総平均が示すほどの急激なものではなく、年齢・職種による差は小さくないが、概ね横ばいか微増であったと解釈するのが妥当だろう。同期間には2度にわたる消費税引き上げが実施されている。消費税による消費者物価の上昇がなかったならば同期間で5%程度実質賃金の上昇があったであろうと推測される。十分な賃金上昇がないままに、消費税を引き上げたことは経済成長自体にも大きな負の影響を与えることでも賃金上昇を抑制したと考えられる。

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当初「アベノミクス3本の矢」は「大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略」の三本柱でデフレからの脱却と経済成長の再起動を目指すものであった。これら3本の矢のうち、当初公約通りに実施されたのは金融政策だけといってよい。意外に思われるかもしれないが、安倍政権においてGDPに占める公的需要(広義の政府支出)の割合も25%前後でほとんど変化していない。大規模な財政出動が行われたのは2020年になってからとさえ言えるだろう。

安倍政権の金融政策は、今日ではリフレ政策と呼ばれる経済政策手法に近い。リフレ政策の特徴は「予想に働きかける政策」の重視にある。現時点で金利を下げる、ベースマネーを増やすだけではなく「ゼロ金利政策等の金融緩和がより長く継続される」という民間に予想させることで現時点での消費や投資等の需要を上昇させるというわけだ。

アベノミクス開始前、この予想変化がどのような経路で生じるかについては複数の仮説があった。そのひとつが、将来物価が高くなると予想されると、早めの購入が有利になることから消費・投資が直接刺激されるという経路。もうひとつが、低金利状態が長期化するとの予想から資産価格が上昇し、それによって企業の財務状況が改善することによって企業の投資・生産が刺激されるという経路だ。現時点から振り返ってみると、第二のルートが金融緩和の影響が実体経済に波及する主要ルートであったと言えよう。

安倍内閣発足以前から安倍政権の誕生を予想して為替や株価など、資産価格の上昇がはじまった。また、その結果として生じた円安は海外子会社利益の円換算額を上昇させることを通じて製造業各社の財務状況を改善した。さらに、バブル崩壊以降の地価下落のペースが落ち、大都市圏を中心に地価が上昇に転じるところが増えたことも企業の金融面での体力強化につながったと言える。