アベノミクスで「雇用と賃金」は結局どうなったのか、数字で徹底検証する

雇用は500万増、じつは実質賃金も…
飯田 泰之 プロフィール

雇用拡大の賃金引き下げ効果

時短勤務の影響に加えて、「雇用者が増えた」ことが「雇用者全員の平均給与」を低下させた可能性も否めない。例えば、A~Dの4人のうち、A・B・Cの3人が月給30万円で雇われているが、Dは失業しているとしよう。この時、雇用者の平均賃金は30万円である。ここで景気が改善してA・B・Cは32万円に昇級し、Dも月給20万円の職を得たとしよう。この時、雇用者の平均賃金は29万円となる。4人のいずれもこれまでより収入が高くなっているのに「平均賃金」だけが低下することになるわけだ。

正規雇用者総数が急激に増加したことで、「はじめて正規雇用職についた者」も相当の数となろう。未経験・新人の賃金は、当然、経験者・長期勤続者よりも低い。厚生労働省「賃金構造基本調査」によると、大学・大学院卒45歳から49歳のフルタイム労働者の平均勤続年数は2012年には18年だったものが、2019年には16.8年に低下している。多くの企業の定期昇給率が2%弱であることを考えると、この平均勤続年数の低下は同年代の平均賃金を2%ほど低下させうる

なお、高校卒では35歳から39歳のフルタイム労働者の平均勤続年数が2012年の10.7年から9.9年へと低下している。このような平均勤続年数の低下は30代後半から40代にみられる特徴である。一方、高齢者ではむしろ平均勤続年数が長くなる傾向がある。

ここから、「40歳前後で新たに正規雇用の職を得た者、定年後再雇用の高齢者」が新たに雇用者・正規雇用者に加わったことがわかる。これらはいずれも他の労働者よりは相対的に賃金が低いため、平均値としての給料を引き下げる効果がある。このようなニューカマー効果が「平均賃金」を抑制している可能性は高いだろう。

そこで、同調査から年齢層別の年間総収入を推計すると表1のようになる。ここでも、勤続年数が短期化した40歳前後の平均賃金の上昇が抑制されていることがわかる。ちなみに2012年と2019年の消費者物価指数の年平均値をくらべると、同期間に5.8%物価が上昇している点にご留意いただきたい。同表からは、若年世代については物価の変化を考慮してもなお、安倍政権期を通じて賃金の上昇があったことがわかる。

表1:2012年を100とした場合の2019年の年収比較

一方で、40代から50代前半にかけての実質賃金が低くとどまった理由は勤続年数の短縮だけではない。同時期に各企業は再雇用制度の拡大や定年延長賃金への準備として賃金カーブのフラット化――年齢に応じた昇給の抑制をすすめていることの影響は無視できないだろう。人事院による「民間給与実態調査」においても、技術系職員に比べてこのような賃金フラット化の影響が大きい事務系職員の賃金の伸びは低い傾向がある。