コロナ、テロ、麻薬、南シナ海…比ドゥテルテ政権の「四面楚歌」

現在75歳。任期満了まで残り約2年
大塚 智彦 プロフィール

大物麻薬服役囚コロナ感染死の怪

ドゥテルテ大統領の肝いり政策の一つである麻薬関連犯罪への徹底的取り締まりは、捜査現場での法に基づかない容疑者射殺という「超法規的殺人」の半ば黙認が人権団体やキリスト教組織、国際社会から「人権侵害」との厳しい指摘を受けている。

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7月19日、フィリピンのマスコミが「刑務所内で死亡した麻薬犯罪服役囚のリスト」を入手して報道した。それによるとフィリピンの大物麻薬犯罪者、麻薬組織の幹部など少なくとも9人の名前があり、いずれも死因が「コロナ感染」とあったという。いずれも遺体は感染の危険があるとして死亡後12時間以内の火葬後にすでに埋葬されているとのことだった。

このリストは「氏名不詳の警察官の報告」に基づくといわれ、その報告書には「指紋の記録がない別人の遺体とすり替えられた可能性がある」と記されているということが判明。大物麻薬犯服役囚がコロナ死を装って遺体をすり替えて密かに脱獄した可能性まで指摘される事態となったのだ。

議会も調査に乗り出しているが、唯一の証拠である「遺体」がすでに火葬、埋葬されているため、真相は深い闇の中。これも麻薬犯罪の徹底捜査を指示しているドゥテルテ大統領の悩みを深くしている。

ワクチン目当てで対中姿勢軟化か

中国は8月中旬以降、南シナ海で大規模な軍事演習を繰り返すなど、同海域での既得権益の主張に余念がなく、フィリピンが実効支配する島嶼周辺でも挑発的な活動を続けている。

フィリピン漁民の漁具が押収されたりするなど直接行動も目立つ中、ドゥテルテ大統領は「中国と戦争をする余裕はない」と弱気ともとれる発言を7月27日に行ったほか、「中国と戦争しても勝ち目はない」とある意味正直な発言をするなど、南シナ海の領有権問題でかつての対中国強硬姿勢は影を潜めている。

フィリピンのマスコミなどはその理由として「最大の国内課題であるコロナウイルス問題で中国からワクチンを提供してもらうためではないか」との見方を伝えている。

 

中国に対抗する米軍主体の南シナ海での合同演習にフィリピンは一時「参加を見合わせる」と表明したり、フィリピン領に入る米軍関係者は「全てコロナ検査を受ける必要がある」といってみたり、その一方で8月26日にはテオドロ・ロクシン外相が「米軍の南シナ海地域でのプレゼンスは地域安定のために不可欠である」と持ち上げたり、と相変わらずのどっちつかずの姿勢を取り続けている。

これも一種のドゥテルテ流といえばそれまでだが、中国、米国ともにフィリピンの真意が一体どこにあるのかを読むのに苦労しているといったところだろう。