Sinosaurus triassicus photo by Matteo De Stefano/MUSE (CC BY-SA 3.0)

「中国龍」という名前の恐竜をめぐる中国の恐竜研究の歴史

いまだに新発見が続く、古株の恐竜
好評連載「恐竜大陸をゆく」。今回は「中国龍」(シノサウルス)という名前の恐竜についてご紹介します。名前からも想像できる通り、中国の恐竜研究の歴史のなかでは比較的はやい時期に発見された恐竜ですが、いまだに新発見が続いているホットな恐竜でもあるそうです。

恐竜の名前から見える愛国主義の時代

中国で見つかった恐竜には、名前に「Sino」(中華、中国)を冠している例が少なくない。いまざっと調べてみたところ、たとえば以下のようなものがあった。

シノサウロプテリクス(中華龍鳥:Sinosauropteryx)
獣脚類(コエルロサウルス類)、白亜紀前期、遼寧省で発見。

シノルニトサウルス(中華鳥龍:Sinornithosaurus)
獣脚類(コエルロサウルス類)、白亜紀前期、遼寧省で発見。

シノカリオプテリクス(中華麗羽龍:Sinocalliopteryx)
獣脚類(コエルロサウルス類)、白亜紀前期、遼寧省で発見。

シノルニトイデス(中国鳥脚龍:Sinornithoides)
獣脚類(コエルロサウルス類)、白亜紀前期、内モンゴル自治区で発見。

シノヴェナトル(中国猟龍:Sinovenator)
獣脚類(コエルロサウルス類)、白亜紀前期、遼寧省で発見。

シノルニトミムス(中国似鳥龍:Sinornithomimus)
獣脚類(オルニトミモサウルス類)、白亜紀前期、内モンゴル自治区で発見。

シンラプトル(中華盜龍:Sinraptor)
獣脚類(アロサウルス類)、ジュラ紀後期、新疆ウイグル自治区、四川省で発見。

シノケラトプス(中国角龍:Sinoceratops)
角竜類、白亜紀後期、山東省で発見。

シノサウロプテリクスの化石のレプリカ。内蒙古博物院にて筆者撮影

ややこしいことに、「中華龍鳥」と「中華鳥龍」「中国似鳥龍」は漢字名が似ているが別の恐竜である。

名前に「Sino」を冠した恐竜に獣脚類の羽毛恐竜が多いのは、これらの化石が1990年代末から21世紀にかけての、中国の愛国主義イデオロギーが強い時代に見つかっていることも関係しているのだろう。

いっぽう、こうした「Sino」系恐竜のなかで最もそのものズバリの名称を持つのが、シノサウルス(中国龍:Sinosaurus)である。こちらは模式種の三畳中国龍(Sinosaurus triassicus)の報告が1948年という、中国の恐竜研究史上ではかなりの古株だ。

中国恐竜の代表格「中国龍」の発見

シノサウルスはジュラ紀前期に生息した獣脚類で、体長は推定5.6メートル。中国有数の恐竜化石の産地で、ルーフェンゴサウルスの化石発見でも知られる雲南省の禄豊一帯から化石が見つかっている。映画『ジュラシック・パーク』にも登場する頭にトサカがある獣脚類、ディロフォサウルス(Dilophosaurus)と非常に近い仲間である。

化石が発見されたきっかけは、中国恐竜学の泰斗である楊鍾健(C. C. Young)が、1938年に日中戦争から逃れて雲南省禄豊でおこなっていた発掘プロジェクトだ。このときに4本の歯を持つ上顎が見つかっていた。

楊鍾健の論文に掲載されたシノサウルスの上顎のスケッチ

もっともその後、日中戦争や国共内戦の影響で研究が遅れ、シノサウルスが報告された論文“On Two New Saurischians From Lufeng, Yunnan(雲南省禄豊からの2種類の新たな竜盤類について)”が発表されたのは、中華人民共和国建国前年の1948年になってからのことになる。

なお、ジュラ紀前期の恐竜なのに種小名が「三畳(triassicus)」なのは、報告当時の楊鍾健が三畳紀後期の地層から化石が出たと誤認したためだった。