フェミニズム、LGBT、男女平等……。社会の構造や文化的背景と深く関わるジェンダー問題は国ごとに状況がさまざまです。ここで紹介するのは、日本の課題と向き合えるドキュメント&評論10冊。ダイバーシティへの第一歩は、知ることからはじまります。

Selector
代官山 蔦屋書店
宮台由美子

代官山 蔦屋書店の人文コンシェルジュ。哲学·思想、心理、社会など人文書の選書やイベントを企画。定期開催する代官山人文カフェが人気。

ON READING
黒田杏子

名古屋·東山公園で書店&ギャラリー「ON READING」を夫婦で経営。“感じる、考える人のための本屋”を掲げたジャンルレスな選書が人気。

くまざわ書店 八王子店
磯前大地

人文系出版社を経て書店員に。専門は人文、法律、理工など。主となる人文社会科学での関心はポスト構造主義の哲学、精神分析、戦後文学。

Document ドキュメント

〈右上〉

日本の男女同権は彼女から始まった

日本国憲法に記された男女同権の原案は、ベアテ·シロタ·ゴードンというひとりの外国人女性が作成したものだった。日本の封建的社会を変えようとした熱意に圧倒される自伝。「未だ日本は、彼女が目指した社会に到達できていない部分が多いと思いますが、もし憲法にこの一文がなかったら、男女同権を勝ち得るのはさらに困難な状況になっていたのではないでしょうか。柔らかな文体で、私たちの知らない戦後を伝えてくれる一冊です」(黒田)

『1945年のクリスマス 日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝』ベアテ·シロタ·ゴードン、平岡磨紀子(構成·文)/朝日文庫/2016年

〈右下〉

男性社会に挑んだ7人の女性の生き様

NHKで女性初のアナウンス室長となった山根基世や、男性作家ばかりだった歴史漫画の世界で『ベルサイユのばら』を描き成功した池田理代子など、偏見や迷信と戦い、この国の女性の立場を切り開いた7人の人生を辿る。「男性社会のイデオロギーによって“女”という箱に閉じ込められてきた女性たち。自分たちを覆う“ガラスの天井”を先人たちはいかに破ってきたのか。その人生から、戦後の女性の変容や今日の課題を考えることができます」(磯前)

『日本の天井 時代を変えた「第一号」の女たち』石井妙子/角川書店/2019年

〈左〉

当事者と支援者のリアルな葛藤を知る

LGBT当事者にとっても、アライ(LGBTの支援者)にとっても、他者のカミングアウトについて詳しく話を聞く機会はめったにない。具体的なエピソードに多くを学べる、7組の往復書簡の記録。「セクシュアルマイノリティである当事者と家族、または教師の、カミングアウトからその後までの手紙のやりとり。最も身近な他者である家族の理解を得ることの難しさと、支援者がこれまでの価値観を変えることへのリアルな葛藤が伝わる本です」(宮台)

『カミングアウト·レターズ 子どもと親、生徒と教師の往復書簡』RYOJI、砂川秀樹(編)/太郎次郎社エディタス/2007年

〈上〉

彼女たちの状況にただ心を寄せる

沖縄の夜の街で働く10代の女性たち。その生活に迫った4年間の調査記録。暴力や貧困。それを背負っての子育て。社会問題として扱われることが多いキーワードだが、聞くことに徹する著者が、彼女たちひとりひとりの物語を悲観することなく伝えていく。「語られるエピソードは重いものですが、著者の温かいまなざしと、居場所を見つけた少女たちの未来を見据える姿に、読後感は明るい本です。知ることを恐れずに、手にとってみてください」(黒田)

『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』上間陽子/太田出版/2017年

〈下〉
人間の尊厳の為に戦った人生を知る

大正時代、親が決めた縁組から逃げ出し、雑誌『青鞜』を舞台に貞操論争、堕胎論争、廃娼論争などを巻き起こした伊藤野枝。ウーマンリブの元祖である彼女が叫び続けたのは、自分の心に正直に生きることだった。恋愛、結婚、仕事、子育て……情熱溢れる28年の人生を辿る。「“あなたは国の為政者でも私よりは弱い”――100年前の時代を生きたアナーキスト女性が封建的な価値観に囚われず生きた姿勢に学ぶ、自由の薦め。力を貰えます」(磯前)

『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』栗原康/岩波現代文庫/2020年

Criticism 評論

〈右〉
メディアが変われば日本の意識も変わる

日本のジェンダーギャップを埋めるには、メディアのあり方から見直す必要がある。いまだに男性中心の業界が世の中に押し付ける価値観に異議を唱えるのは、小島慶子、山本恵子、白河桃子など、女性ジャーナリストや研究者、エッセイストら。疑問や解決策を提示する。「テレビ、新聞、広告など、多くの人の意識に影響を与えるメディアは、この国を映す鏡としてどのように変わるべきなのか。彼女たちの実体験に基づいた声に考えさせられます」(宮台)

『足をどかしてくれませんか。メディアは女たちの声を届けているか』林香里 編/亜紀書房/2019年

〈左〉
ジェンダーの入り口、母親像から自由に

「家族」という社会の中で、母親は絶対的な力を持ち得る。時にその力が子どもの心を支配してしまうことも……。母と、同性である娘の関係に焦点をあて、互いに自立した付き合い方を紹介。母親像からの解放は、ジェンダーの視野を広げることにも繋がる。「ジェンダー意識の形成において、たった一人しかいないママからの影響は大きく、その価値観から自由になることはとても難しい。ママを研究し、対象化·言語化することで呪縛を解く」(宮台)

『ザ·ママの研究』信田さよ子/新曜社/2019年

〈右上〉
ジェンダー問題は子どもと考える

男性ゆえの生きづらさを研究する著者が、将来を考え始める男子学生に、社会が求める“男らしさ”に翻弄されない生き方を伝える。ジェンダーにまつわる価値観は成長過程で形成されるもの。多様性のある社会は10代の意識を変えることから始まる。「日本社会における性別役割分業の歴史や、幼少期から男らしさを身につけることを求められる社会的風潮について、高校生向けに解説。 “らしさ”に縛られずに生きられる社会の実現を考える」(宮台)

『男子が10代のうちに考えておきたいこと』 田中俊之/岩波ジュニア新書 / 2019年

〈右下〉
色に潜む無意識のジェンダーバイアス

ピンクという色が背負わされたイメージについて、2人の娘の母でもある著者が、さまざまな事例を交えて検証する。『アナと雪の女王』など最新の事例が盛り込まれているのも興味深い。「性別に紐づくカラーイメージをめぐり、国内外の事例や歴史を紐解きつつ、無意識の刷り込みのルーツを探る本。玩具から始まり、子供服や映画まで、生活のあらゆる場面にはびこるジェンダーバイアスを乗り越えるための広い視野が得られます」(宮台)

『女の子は本当にピンクが好きなのか』堀越英美/河出文庫/2019年

〈左〉
男性の解放のためにまずオスを理解する

ゴリラ研究の第一人者である著者が、“男らしい”という概念が生まれた背景を生物学的に解き明かす。女性が解放を求めるように、男性も前時代的な役割を捨てる権利がある。動物としてのオスの習性を知ることは、ヒトの男女が共に性別の呪縛から自由になるためにも重要。「プライドが高く孤立する男性たち。霊長類の進化と生活をみることで、習俗にとらわれる人間社会や男性性の軛(くびき)をはずし、幸福な男女関係までを考えさせてくれます」(磯前)

『ゴリラに学ぶ男らしさ 男は進化したのか?』山極寿一/ちくま文庫/2019年

日本のジェンダーギャップ指数は世界121位!?

ジェンダー問題は国によって大きく状況が異なる。世界のお手本となっている北欧諸国では、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、アイスランドの4ヵ国が女性首相。政治家や企業の幹部職にも女性が多く、世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数(GGI)でも、毎年上位にランクインしている。

このGGIとは、国ごとの男女格差を測るもの。経済、政治、教育、健康の4分野から評価が決まり、数値0は完全不平等、数値1は完全平等を示している。2020年の日本の総合スコアは0.652。153ヵ国中121位で、昨年の149ヵ国中110位からさらにランクを落とし、過去最低となってしまった。なぜ、日本のジェンダーギャップは埋まらないのか? 

日本のスコアは教育と健康においてはまだ高評価だが、政治と経済は評価が低く、政治だけなら144位とさらにランクを落としてしまう。これはつまり、社会に出てからの男女格差が大きいということ。あらゆる立場の人々が対等に生きられるダイバーシティを目指し、日本はさらにスピードアップして変わらなくてはならない。

●情報は、FRaU2020年8月号発売時点のものです。
Photo:Toru Oshima Text & Edit:Yuka Uchida

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