フェミニズム、LGBT、男女平等……。社会の構造や文化的背景と深く関わるジェンダー問題は国ごとに状況がさまざまです。ここで紹介するのは、日本の課題と向き合えるエッセイ&小説10冊。ダイバーシティへの第一歩は、知ることからはじまります。

Selector
代官山 蔦屋書店
宮台由美子

代官山 蔦屋書店の人文コンシェルジュ。哲学·思想、心理、社会など人文書の選書やイベントを企画。定期開催する代官山人文カフェが人気。

ON READING
黒田杏子

名古屋·東山公園で書店&ギャラリー「ON READING」を夫婦で経営。“感じる、考える人のための本屋”を掲げたジャンルレスな選書が人気。

くまざわ書店 八王子店
磯前大地

人文系出版社を経て書店員に。専門は人文、法律、理工など。主となる人文社会科学での関心はポスト構造主義の哲学、精神分析、戦後文学。

Essay エッセイ

〈上〉
他者の日常の追体験から多様性を学ぶ

解離性同一性障害とは、かつては多重人格障害と呼ばれていた心の病のこと。当事者である20代の著者は、自分の意思の及ばないところで行動する12人の人格とどう生きているのか。知識だけでは到底追いつかないリアルな日々の記録によって、他者への想像力が育まれる。「年齢も性別も異なる、複数の交代人格をもつ著者が語る解離性同一性障害の世界。あたかも常識のように語られる日常のみが、日常ではないと知ることができます」(磯前)

『ぼくが13人の人生を生きるには身体がたりない。解離性同一性障害の非日常な日常』haru/河出書房新社/2020年

〈下〉
結婚とは何か? を笑いながら考える

ドラマチックな恋愛や結婚は求めていないが、生涯ひとりで生きるのも嫌。そんな思いを抱く『オカマだけどOLやってます。』の著者が、ゲイの男性と“結婚”と称して始めた同居生活。恋愛感情のない二人の日常から新しい結婚観が見えてくる。「恋愛を経て結婚することは重要? 結婚とは戸籍を入れること? はたまた暮らしそのもの? など、笑いながら読むうちに次々と浮かぶ疑問。ありとあらゆる“普通”を考え直すきっかけをくれます」(黒田)

『結婚の奴』能町みね子/平凡社/2019年

右〉
無意識の先入観を自覚するために

ブスという言葉に込められる容姿差別。それは社会のゆがみであり、社会は変えられると語る著者。日常に溢れる外見を評する言葉とそれに紐づく先入観について、とことん考え抜くエッセイ。「世間の常識を鵜呑みにせず、あらゆる物事を自分自身で考え直そうとする著者の態度に、自分はどうだろう? と考えざるを得ません。国籍や性別、年齢や見た目など、たくさんのカテゴライズにいつの間にか縛られている自分に気づかされます」(黒田)

『ブスの自信の持ち方』山崎ナオコーラ/誠文堂新光社/2019年

〈左上〉
ジェンダーの本質は自分の幸せを知ること

精神科医として数々の名著を残した著者の代表作。ジェンダー問題は、ひとりひとりが真の生きがいを見つけ、他者のそれも認められるようになることで解決に向かうのかもしれない。主体性を持って生きることの大切さを説く人生の書。「たとえ生きがいを持っていなくても、それを育むことはできる、と著者。男対女、多数対少数など、対立構造にのまれがちなジェンダー論を違うかたちで捉え、生きる希望を見出すための手がかりとなる本です」(磯前)

『生きがいについて』神谷美恵子/みすず書房/2004年

〈左下〉
昔話の再構築で示す新たなロールモデル

かぐや姫やイザナミノミコトの人生を現代のジェンダー観で見つめ直したら? そこで生じる違和感をユーモラスに描いたイラストエッセイ。「当たり前のように理不尽な役割を背負わされていた日本の昔話に出てくる女の子たち。彼女たちを現代に招き、自由に生きる可能性を考える異色の内容です。現代の女性たちは、彼女らと地続きの世界を生きている。だからこそ、新たなロールモデルの提示が、女性を勇気づけることにつながると思います」(宮台)

『日本のヤバい女の子』はらだ有彩/柏書房/2018年

Novel 小説

〈右〉
戦後の日本文学を代表する同性愛小説

1949年に発表された戦後日本文学の金字塔。その当時、弱冠24歳だった著者は、初の書き下ろし長編小説であるこの作品の中で、自身の同性愛傾向を赤裸々にカミングアウトした。ジェンダー観が変化した今、読み直すことで新たな気づきがあるはず。「女性を愛することができない同性愛者を描いた、文豪の半自叙伝にして面目躍如。自らを縛る偽りの仮面に懊悩する主人公の姿が、今なお現実のなかで苦しむ人々の姿を照らし出します」(磯前)

『仮面の告白』三島由紀夫/新潮文庫/2003年

〈左〉
2人の他者が紡ぐ恋を等身大に描き切る

日本と台湾。文化の違いや言葉の壁とぶつかりながらも密やかに紡がれる同性への恋心。伝えたくても、伝えられないもどかしさ。少数派であることの悩みや生きづらさが等身大の姿として映し出される。「多言語とセクシャルマイノリティの問題に向きあう著者が、国籍の異なる2人の女性の交流をとおして、この社会に確かに存在する複雑な現実を顕にします。固定観念で括ることができない、人間の個性や他者の姿を誠実に伝える小説です」(磯前)

『五つ数えれば三日月が』李琴峰/文藝春秋/2019年

〈右上〉
ルッキズムに囚われないために

人の価値は容姿に左右されない、と力強く信じることができる物語。主人公きりこと、人の言葉を話す猫ラムセス2世が、ユーモラスな会話を重ねながら自分らしさを肯定していく。「主人公は両親に可愛がられ、自らの容姿に疑問を抱いたことがなかった女の子。しかし、ある日同級生から、ぶすと言われ、その生活が一変してしまう。当たり前のように思われる他人からの評価が、ごく限られたひとつのものの見方でしかないと訴える作品」(磯前)

『きりこについて』西加奈子/角川文庫/2011年

〈右下〉
搾取と抑圧に抗う女子たちの革命物語

著者初の長編小説。理不尽な“おじさん”社会に虐げられる主人公·敬子は、いつしかアイドルを心の拠り所とするが、そのアイドルもまた“おじさん”の幻想と欲望が作り出したものだった……。「ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのかは感想が分かれるところかもしれませんが、男性がコントロールする虚像だったはずの女性たちが、自らの意思で生きていく姿には爽快感を覚えます。ディストピア小説でもあり、希望の書でもある作品」(黒田)

『持続可能な魂の利用』松田青子/中央公論新社/2020年

〈左〉
誰かを傷つけるかもと想像できる優しさ

女らしさや男らしさが苦手。恋愛もどこか楽しめない。でも誰かと繋がりたい。傷つくことも、傷つけることもせずに――。注目の新人作家が描く、鈍くなれない若者たちの物語。「繊細な登場人物たちを前にして省みるのは、自分の無自覚な加害性。誰かを傷つけているかもしれないと考えることは辛いけれど、鈍感ではいたくないし、生きることはあらゆる後ろめたさを抱えていくことかもしれない。そんな風に、自己反省の時間をくれる作品です」(黒田)

『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』大前粟生/河出書房新社/2020年

●情報は、FRaU2020年8月号発売時点のものです。
Photo:Toru Oshima Text & Edit:Yuka Uchida

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