新型コロナウイルス問題が深刻化する前の2019年後半、東京近郊に住む一人の主婦がある大手証券の営業店を訪れた。手元にあるのは個人向け国債の満期資金1000万円。老後のための蓄えの一部である。窓口の担当者がすすめてきたのは仕組債だった。ざっと説明を受け、資料も見せられた。
「金融資産5000万円以上をお持ちならば、もっと利率の高い魅力的な商品がありますが、どうですか」
さすがに「そこまでの資産はない」と断ると、担当者は「200万円以上で1000万円ならば、この商品ですね」とさらに別の資料を主婦のほうに押し出した。
その直後、見計らったように支店長がやってきた。
「奥様、商品の仕組みはおわかりいただけましたね」
何が何だかよくわからなかったが、支店長の「圧」に押されこの主婦は購入したという。
年が明けた2020年1月、「早期償還」ということで、投資元本とわずかばかりの利息が口座に入金された。主婦は驚いた。なぜだかわからなかったが、担当者が電話してきて「同じ商品をまた売り出します。パンフレッドをお送りしました」と伝えられた。