「こうでしょ」ではなく「どう思う?」

「それまでは、こうだったから次はこうでしょ、と子どもたちに伝えてきました。でも、それが彼らに届いていたのか? 伝わっていたのか? と反省した。例えば、次の試合の相手のスカウティングビデオを見せながら、相手はこういう癖やウイークポイントがあるからこう攻めろ、ではなく、プレーヤーたちに、ビデオから何が見える? どう思う? と問いかけるべきなんです。もしくは一度見てからグループワークをし、そこで出てきた選手の意見をまとめてから共通意識を持たせていく。彼らに学びの機会を増やす工夫を始めました」(佐伯さん)。

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ご存知のように、サッカーは「判断力」がものを言うスポーツである。パスなのか、ドリブルなのか、どのタイミングで、どこに? たくさんの選択肢を見出しながら、最良の判断をする。しかも、レベルが高くなればなるほど、その判断をするスピードが求められる。

「今の(プレー)は、どう思う?」

ビジャレアルの育成コーチたちは、常にそう問いかけるようになった。17歳にも、12歳にも、3歳の幼児クラスでさえ。小さな子は考えながら動くことは難しい。したがって、その状況でどんな選択肢があるかをわかってもらうため「一回止まって考えてみようよ」と呼びかける。

「エゴ満載の指導をしてきたことに気づいたんです。子どもの声に耳を傾ける。声を拾い上げる努力をすることが重要だと。わかっていないとか、自分では気づいていないなどと、すぐにジャッジすることをやめようと決めました」

期限付き移籍が発表された8月11日、ビレジュアルCFの会長フェルナンド・ロイグ氏と久保選手 Photo by Getty Images

サッカースタッフの「民主化」

意識改革の末、指導力が向上したコーチのもとで、ビジャレアルの子どもたちは3歳から意見を求められる。それゆえに、自ら考え、自己決定できるようになる。選手に意見を求める風土がチームになければ、監督に対して自分の意思を伝えられるようにはならない
「もう20数年も指導者をやっているのに、ようやく気付いたのです。一番成長しなかったのは私のほうだと」

そう話す佐伯さんは「私を含め、コーチたちは主観的な思考癖から客観的なものに移行させる努力をした」と言う。

意識改革が進むなかで目立ったのは、ホワイトボードの使用頻度が減ってきたこと。説明するより、対話の時間が増えた。このことは、選手らにたくさんの「選択肢」を見つける力を授けた。
次に、コーチの声が少なくなった。「ロング!」とか「右にパス!」は単なるリアクションでしかない。つまり「指導」とは言えないと結論付けた。
チャンスやピンチを見つける力を選手に植え付ける。そのために私たちは黙ることにしたのです

同時に、クラブにあった四角いテーブルを、すべて丸テーブルに変えた。丸テーブルにすれば、対等な関係を築きやすい。サポートし、気付きを促す空間をつくるよう努めた。
サッカースタッフの民主化を図ったんです」と佐伯さんは笑う。