プロ選手となったそのあとの人生も大切

変革のきっかけは、育てた選手も含め、欧州のフットボーラーに逮捕者が相次いだことだった。プロ選手として名声を勝ち得ても、人生を台無しにしてはどうしようもない。

「人が育つのを手助けするのが指導者(の役割)なのに、それについて私たちは何かしてきたか? 自分たちは、もしかしたら彼らにサッカーだけを教えていたのではないか」
当時、育成組織の中枢にいた佐伯さんはコーチらとそれまでの取り組みを徹底的に洗いなおした。

「このままでは、10年後、20年後、また同じニュースが出るのではないか。今育てている彼らの人生はどうなるのか。非常にハードなことだけれど、きちんと向き合おうと話し合った」(佐伯さん)。

改革を始めた日。クラブの幹部がこう言った。
「4-3-3などのシステムの話を続けていていいのか? 君たちはサッカーのことはもうよくわかっている。もう、おなかいっぱいだ。卒業しよう!」
新しいことを学んでくれ、という意味である。

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120人のコーチたちの指導を撮影

総勢120人のコーチたちは、まず一人ひとりのコーチングをつぶさに撮影した。胸にアクションカメラをつけ、子どもたちへの声掛けや、どのタイミングでどこを見ているのか、何に注目して指導しているのかがわかるよう記録する。それぞれのコーチングを撮影したビデオを見て、コーチ全員が評価するためだ。

いつもならビデオに撮るのは選手のプレーであり、ビデオを見ながら「全然走ってないね」などと評価の対象になるのは選手側。ところが、評価の目はコーチに向けられる。「なぜ、あそこであの声掛けしたの?」と突っ込まれたり、突っ込んだり。コーチ歴の長いベテランも、新人もそこでは対等だ。

「自分が指導する姿を自分で見るのも、仲間に見られるのも、本当に恥ずかしかった。すごくお互いに痛みを伴ったが、そこから内省が進みました」
佐伯さんが振り返るように、このビデオ会議によってコーチ全員が「ベターな指導」に向かって突き進む。

会議を続けていくと、声掛けの際に支配的なワードが多いことがわかった。こうしよう、ああしろという指示命令が目立った。コーチらは「指導が一方通行だ。子どもの判断に対し、僕らは自分の考えを押し付けるばかりで、彼らの判断について尋ねてみたことがあっただろうか」と大きな気づきを得ていく。

今季からビジャレアルの監督をつとめるウナイ・エメリ監督。若手の育成に定評がある Photo by Getty Images