浩二さん(仮名・74歳)という、当院を受診されているアルツハイマー型認知症の人がいます。診察室に入るや否やまくし立てます。
「先生。俺さあ。アルツハイマーってわかったからさあ。だからこれ以上、もう進まないようにしてほしいんだよ。どうしたらいいの。教えてよっ」
私は圧倒されます。
「先生、この前さあ。テレビでさあ。〇〇オイルで認知症予防ができる、って言ってたよ。あれうそだろっ。そうじゃなくて、ちゃんとしたやつ、教えてよ」
私「んー……」
「なんか、ないのかよぉー。先生さあ。なんか、教えてよぉ」
私「んー……」
残念ながら、認知症にはちゃんと効く予防法がないのです。
浩二さんの勢いに押されて、私はか細い声で答えます。
「いやあ、ないね……」
「先生、そんな簡単に、ない、なんて言わないでよぉ。書き取りとかさあ、 ああいうの、ですよ」
私「まあ、そう言われても、ねぇ。あっ、計算とか漢字とか好きなんですか?」
「そんなもん、嫌いに決まってんじゃんか。でもやりゃあ、よくなるっちゅうならやるよ。可能性すらないの?」
私はどうすればいいのでしょうか?