『ミスティ』の主人公はテレビ局の性差別的な人事を上司に正面から指摘し、『よくおごってくれる~』の主人公は上司からセクハラ前提の接待食事会に誘われてキッパリ断るようになる。自分が日々を生きるので精一杯のヒロインに、無償の愛を捧げる神のような男性キャラクターの存在も共通する。「王子様」に頼らず自らの力で人生を切り開こうとするヒロイン像も特徴的だ。

こうしたドラマを見ていると、『愛の不時着』で私が「すごく新しい」と考えたジェンダー視点や男性キャラクターによる献身は、韓国ドラマでは「割と当たり前」だとわかる。

90年代から始まった韓国ドラマの変化

ここまでの話に共感いただける方に、ぜひ読んでいただきたい本がある。山下英愛(やましたよんえ)著『女たちの韓流』。1990年代後半~2010年までの韓国ドラマ25本を女性学と韓国文化論を専門とする研究者が分析した新書だ。著者の専門性とドラマ愛好家目線が見事に融合し、各作品と関連づけた韓国の政治、経済、文化、歴史の解説が非常に面白い。7年前の刊行だが、問題提起は今も充分に通用する。女性と貧困、暴力、女性に自己犠牲を強いる社会規範について日本との共通点・相違点と共に考えさせられた。

特に印象に残ったのは『冬のソナタ』を解説した79ページ、「70、80年代の韓国では、既婚男性は妻の同意なく婚外子を自分の戸籍に入れることができた」という部分だ。この下りを読んで、『愛の不時着』でユン・セリが抱えていた苦悩の社会背景を理解できた。父親の愛人から生まれたセリは、生後数日で財閥であるユン家に連れてこられた。育ての母は正妻で、セリの出生背景を長い間気に病み愛情を表現できずに長年過ごしてきた。表面的には女性同士の問題に見えるが、男尊女卑的な社会構造が生み出した問題である。