日本では官僚が政府に忖度して文書改ざんを行う問題が起きたが、イギリスには政府に忖度するどころか、政府を告発するために文書をメディアにリークした政府関係者の女性がいた。

リークした情報は、2003年のイラク戦争でアメリカが使った「汚い手口」を世に知らしめるものだった。しかし意外なことに、この一大スクープに当時、大きなスポットライトが当てられることはなかった。この一連の事件を映画化したのが、現在公開中の『オフィシャル・シークレット』だ。自身のキャリアや懲役刑も顧みず、国家機密(オフィシャル・シークレット)を漏洩した当時29歳の女性、キャサリン・ガンをキーラ・ナイトレイが演じている。

キャサリン自身が「この映画の登場人物は全員が今も健在。だから脚本は事実に限りなく近い」(※1)と語るように、映画で描かれる出来事はほぼ真実である。なぜ、彼女は自分を犠牲にしてまで文書をリークしたのか。また、なぜ今、この事件が映画化されたのか。映画と、NYの独立放送局「Democracy Now!」でキャサリン・ガンが受けたロングインタビューの内容から探っていきたい。

アメリカの諜報機関から届いた、一通のメール

2003年の1月31日、当時、英国の諜報機関GCHQ(英政府通信本部)で中国語の翻訳を担当する諜報員だったキャサリン・ガンは、一通のメールを受け取った。送り主は、アメリカの諜報機関であるNSA(米国家安全保障局)。それは、ある国々の国連代表の盗聴および情報操作を要請するものだった。

『オフィシャル・シークレット』より

2001年9月11日の同時多発テロ以降、イラクの独裁者サダム=フセインの脅威をアルカイダやテロと結びつけて考えるようになっていたアメリカは、2002年から国連を通してイラクで大量破壊兵器の査察を行ったが、その証拠は得られなかった。

疑惑を拭えなかったアメリカは、軍事介入を決意。先制攻撃をしようと企むアメリカに、トニー・ブレア首相率いるイギリスは同調したが、フランス、ロシア、中国などは反対し、国連安保理は意見が割れた。これにより、非常任理事国である動きの見えない6カ国(アンゴラ、ギニア、カメルーン、チリ、パキスタン、メキシコ)が注目されるようになり、アメリカはそれらの国々の国連代表のオフィスとプライベートな会話を盗聴し、操作することをイギリスの諜報機関に求めたのだ。