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なぜ女生徒36人は突然、海で溺れ死んだのか…「橋北中学校水難事故」の真実

本当にあった怪奇事件簿④
朝里 樹 プロフィール

「亡霊説」が説得力を持ったワケ

怪談というものは人々の興味をひくものだ。同じように水中において死者が人の命を奪おうとする怪談は多い。

海水浴に来ていた友人が崖から海に飛び込み、そのまま亡くなったため、飛び込む瞬間の写真を現像するとその友人に向かって海から無数の白い腕が伸びていたという怪談では、その腕の正体はその海で命を絶った人々であったと語られる。

また、学校の水泳を舞台にしたものでは、学校のプールの第四コースを一人で泳いでいるとそのプールで死んだ生徒の霊に足を引っ張られるというものもある。これらの怪談は広く全国に流布している。

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事故や事件の背景に何らかの不可思議な存在や現象があるとされた方が多くの人の興味の対象となるのは事実だ。特にこの事故は数多の犠牲を出した空襲のちょうど10年後の同日に発生した、という偶然も重なり、亡霊説が説得力を持ってしまった。

また、水木しげる氏や松谷みよ子氏といった著名な人物に取り上げられたり、多くのメディアに怪談として紹介されたことで、現在でも数多くの人の知るところとなっている。

しかし、実際の事故とそれが元になって生まれた怪談は、別個に考えるべきだと私は思う。この海難事故で女生徒たちの命を奪ったのは戦争の亡霊などではなく、誰の場合にでも起こりうる自然現象だった、ということを忘れてはならない。

戦争の犠牲になった人々が亡霊と化し、戦争を生き延びた子どもたちを新たな犠牲とした、などという悲しい出来事はなかったのだ。

【参考文献】
松谷みよ子編著『現代民話考5 死の知らせ・あの世へ行った話』(2003年、ちくま文庫)
水木しげる著『決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』(2014年、講談社文庫)
後藤宏行著『死の海 「中河原海岸水難事故」の真相と漂泊の亡霊たち』(2019年、洋泉社※現在、宝島社)

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