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いまさら聞けない「ゲノム編集ってなんですか?」

日本のゲノム編集の第一人者が解説

ヒトの遺伝情報の文字数

地球上の全ての生物は、化学物質であるDNAを遺伝情報として利用している。DNAは長いヒモ状の物質であり、その中に4種類の塩基(A、G、C、T)が並んでいる。

この4種類の塩基を文字とすると4種類の文字の並び(塩基配列)が生物の情報となっている。コンピュータのプログラムが0と1という2文字のデジタル情報で作られるのに対して、多種多様な生物は4文字のデジタル情報で作られているのである。

それでは、私たちヒトの遺伝情報はどれくらいあるのだろうか? ヒトでは約31億文字が基本情報で、染色体として分割されて細胞の核の中に保存されている。実際には、精子と卵の受精によって六十数億の文字情報となり、この情報から私たちは作られる。

ところでDNAは遺伝情報として利用されるが、DNAの塩基配列の全てに重要な情報が入っているというわけではない。私たちのかたちや性質を決める遺伝子とよばれる部分は全体から見ると一部でしかなく、働きのわかっていない部分がほとんどと言ってもよい。ゲノムというのは、遺伝子の部分と働きがよくわかっていない部分の全ての塩基配列情報を意味する。

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ゲノムを「編集」するという意味は?

ゲノム編集という言葉は、およそ10年前から使われるようになった。文字通りゲノム情報を編集するバイオテクノロジーであり、DNAの塩基配列を正確に変えることができる。

出版業界における編集は「一定の志向性をもって情報を収集、整理、構成し、一定の形態にまとめあげる過程、またその行動や技術」と定義されている(「ブリタニカ国際大百科事典」より)。

この定義に当てはめると、ゲノム編集技術でゲノムを自在に整理・構成し、新しい生物までも作れるのではないかと誤解される。しかし実際には、目的の遺伝子を切るはさみ(ゲノム編集ツール)を使って細胞の中で正確に切断し、細胞のもつ修復機能を利用して改変するのがゲノム編集である

ゲノム編集の魅力は、その高い正確性に加えて、様々な培養細胞や生物に利用できる点であろう。2012年に、クリスパー・キャス9とよばれるゲノム編集ツールが開発されて以来、ゲノム編集は爆発的に広がった。

開発から数年で世界中のライフサイエンス研究者が利用できるようになった技術はゲノム編集が初めてかもしれない。ノーベル賞級の技術であり、基礎研究だけでなく産業分野においても革新的な技術であることは疑いない。