アプリ婚活の心得「譲れない条件を決めろ」

「工藤が結婚相手に望むことってなんだ?」

「え?……それは……」

考えればいろいろあるはずだ。しかしパッと答えられない直彦を見て、淳也は「ほら見ろ」と大げさにため息をついた。

「まず自分の中で譲れない条件を決めないと。その上で条件に合う相手をブレずに探すのが、アプリ婚活のコツなんだよ」

譲れない条件……。

言われてみれば、結婚相手を探すつもりでアプリに登録したにも関わらず、これまでずっと「好み」とか「気が合いそう」など直感で選んでいた。

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ふと、留美のことが思い出される。

彼女がどう感じているか知らないが、直彦は留美と過ごす時間が心地いい。また会いたい、話がしたいと思う自分がいる。しかしそれもただのフィーリングだ。

直彦がアプリ婚活を始めたのは、次の駐在までに結婚したいから。

譲れない条件を挙げるなら「駐在についてきてくれること」になるが、もし留美とうまくいくことがあったとして、彼女が仕事や東京暮らしを捨てるだろうか……?

正直、イメージがわかない。むしろ留美には好きなように生きてもらいたいとも思う。

だとしたら、彼女に惹かれる気持ちは封印すべきなのだろう。アプリで探しているのは恋の相手じゃない、結婚相手なのだ。

「……確かにそうだな。次は条件を前提に探してみるよ」

自分に言い聞かせるよう答え、直彦は頭を振って留美の残像を消した。

「ああ、そうだ」

すると急に、淳也が何か思い出した様子でニヤニヤしながら身を乗り出した。

「見る目のない工藤に重要なことを教えておく。アプリマスターとくちゃんの分析によると、趣味は旅行って書いてる女もだいたい地雷らしいから手を出すなよ」

……趣味が旅行だと地雷?

まったく訳がわからない。しかし淳也は肯きながらとくちゃんの教えを語った。

「旅行なんて非日常なんだから楽しくて当たり前だろ。それを趣味だと書くのは、日常に楽しみを見出せてない証拠。そういう女は男に依存しがちで、メンヘラ化する率が高いらしい」

「そう……か?」

完全に傾倒している淳也は「さすが百戦錬磨の男は視点が違うよ」などと感心しきりだが、とくちゃんが何者かもよく知らない直彦は半信半疑である。

一理あるのかもしれないが「だいたい地雷」は言い過ぎだろう。