新型コロナの影響で注目を集めている「マッチングアプリ」。スマホ一つで新たな出会いを探せるため、婚活の主流となりつつあります。

FRaU webでは、実際の取材に基づいた「アプリ婚活」のリアルを、共著作家の山本理沙さんと安本由佳さんによってノンフィクション小説としてお届け。アプリの「モテ技」テクニックも満載です。

主人公はコロナ禍で孤独を極め、本気でアプリを始めたアラサー男女。「結婚とは」「幸せとは」について見つめ直していくなかで、果たして二人はベストパートナーにたどり着けるのでしょうか?

【これまでのあらすじ】
結婚に焦る武田留美(32歳)はマッチングアプリを始め、年下の商社マン・直彦と出会いつつ婚活に精を出すが、デート中に口論となってしまう。その後直彦がランキング1位のさくらとデートすると聞きモラハラ男束縛男に疲弊し、さらにイケメン経営者にデート中に食い逃げされ自暴自棄に陥る。しかし軽薄なマッチングを繰り返す中、ジェームズという不思議な日系アメリカ人と出会うのだった。
これまでの連載「本気でアプリを始めたら」を読みたい方はこちら

出会って10分。初対面の男の家に向かう女

――暑い……。

真夏の夜のうだるような暑さの中、留美は一人で青山通り沿いを歩いていた。

日が暮れてあたりが真っ暗になっても、最近は身体にまとわりつくような熱気が消えない。息苦しさを感じ、マスクを顎まで引き下げる。

留美は今、ほんの10分ほど前にアプリで出会ったばかりの男の家に向かっている。

自分が何をしているのか、あまり考えたくはない。

彼の家までは徒歩15分ほどの距離だった。けれどタクシーを捕まえなかったのは、この暑さに身を委ね、思考力が低下したままでいたかったからだ。

額や背中、脇のあたりにじんわりと汗が伝っていく。

「るみさん?」

無心で歩いていると、つい先ほどスマホ越しに耳にしたばかりの、低く柔らかな声に呼び止められた。写真と同じラフなTシャツ姿の男が、留美に笑いかけている。

「暑い中来てくれてありがとう。ウチはこっちだよ」

身体は暑さで火照りきっているのに、胸の奥にヒヤリとしたものが走る。本当に、こんな風に見知らぬ男の家に行くなんてこと、していいのか。

けれど留美の足は、自然と男の方へと向かって歩き出していた。