悪夢がつきまとうこの街から早く出たい

強盗に強く絞められ過ぎて、固形物はおろか飲み物すら飲むことが困難な状態だった。空腹で死にそう……。お金があれば点滴を受けたいが、帰国するまでは節約を徹底しなければならない。

昼に起きた恐怖がフラッシュバックしてしまい、眠ることもできず「誰かが首を絞めに来るんじゃないか……」そんな恐怖心が朝まで続き、貴重品を握りしめたまま宿のベッド脇に体育座りしたまま朝を迎えた。

この国から……この街から一刻も早く出たい。今すぐ母に会いたい。でもここは日本の真裏だ。今すぐ会えないのなら、誰でもいいから日本人に会いたい。何でもいいから日本語を喋りたい……。

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私は体力気力を振り絞ってブエノスアイレスからブラジルのサンパウロへと向かった。この街にいる限り忌々しい悪夢がつきまとい眠ることができないだろう。どこでもいいから事件現場から離れたかった。

ブラジルの大衆食堂。写真提供/歩りえこ

サンパウロにはリベルタージという日本人街があり、そこへ行けば日系人がたくさんいるし、日本語が通じる病院もあるかもしれない。フラフラになりながらサンパウロになんとか着くと日本人宿へとチェックインし、気力を振り絞って日本人街へと繰り出した。

……日本人に会いたい! 目を血走らせながら探していると、正面から日本人らしい切れ長の目をした青年が歩いて来るのが見えた。私は小走りで走っていき「日本人ですか?」と声をかけた。その青年が一つ年上の26歳の東大大学院生、タカオ君(仮名)だった

私の青アザだらけの顔を見て一目でただ事ではないことを察知したタカオ君。日本人街にある病院をすぐ探してくれたが、日本語が話せる医師が来るのは2週間後で医療費が支払えるかの不安もあった。旅の終わり直前で旅行資金も尽きかけていたこともあり、病院に行くことは断念し、首の痛みや全身打撲は自然治癒に任せ、精神的にできるだけ早く回復しようと努めることにした。

リオデジャネイロのコパカバーナビーチ。写真提供/歩りえこ