日本の支配エリートはコロナでもたない企業は潰れてよいと思っている

反緊縮左派が試されるとき(5)
松尾 匡 プロフィール

日本の生産性は停滞していない

そもそも日本の生産性が上がらなくなったとする支配エリート側の宣伝は大いに疑問です。

日本経済が生産性が上がらなくなったのが停滞の原因だとする構造改革時代の教条は、それを唱えた代表格の林文夫さんが音頭をとった鳴り物入りの実証プロジェクトでも結局実証できませんでした。

当然総需要不足が長期停滞の原因だったのです。日本は先進国で唯一長期にわたって総需要が停滞してGDPが抑えられてきたので、他の先進国と比較して労働生産性が低く計測されるのも不思議ではありませんが、それは技術的な劣等性を反映するものとは言えません。生産性概念のこうした問題について、朴勝俊さんがアトキンソンさんを批判した論考があります。

特に、第三次産業化が進んでいますが、第三次産業は稼働率調整ができないので、不況で客がこなくなれば生産性が下がったかのように計算されるほかないです。

特に、サービス業は労働集約的なところに非正規化が進んで賃金が抑制されてきましたので、総需要が十分でなければ付加価値が低くなります。大企業がこれまで自社内で比較的高賃金で行ってきたことのアウトソーシングを進めていることも、全体としての付加価値を抑えます。

下の図表1は、日本生産性本部が2018年に発表している製造業の生産性の推移の国際比較で、2010年を1としたものです。これを見ると、日本の製造業の生産性は、停滞しているどころか、先進国の中でも上がっている方だということがわかります。

図表1:先進国の製造業の労働生産性の推移(日本生産性本部『労働生産性の国際比較2018』より)

名目GDPの労働生産性で比べても、アジア諸国の中では、日本は依然としてダントツです。図表2をご覧ください。これもやはり日本生産性本部が2018年に発表しているものです。中国が猛烈に追い上げているとは言っても、2017年でまだ日本の37%です。

図表2:アジア諸国の名目労働生産性の推移(日本生産性本部『労働生産性の国際比較2018』より)

 

必要なのは人生のコントロール感

そもそも商店街も町工場も零細農家も、それ自体が雇用や生業の場として人の暮らしを作り、コミュニティを作ってきました。

そして何より、事業主として、あるいは熟練した正社員として、あるいは強力な労組の組合員として、職場で何をなすべきかについて多かれ少なかれ自ら決定し、自分の人生のコントロール感があった。

だから、自らやりがいと誇りを持って仕事をすることができていた。そのことが重要です。単に生産性を進歩させるという名のもとに破壊していいものではありません。

それに、目下の日本は通貨暴落どころか、円高騰の心配をすべきですが、国内でいろいろなものを作る能力が輸入に頼って壊滅すると、将来万一円価値が下落した時、輸入品価格が上がっても国内生産が復活せず、人々の暮らしが苦しくなります。

それを防ぐには、今は円を安めにして、消費税も下げて、コロナ禍を乗り切るための支援策もつぎ込んで、「生産性の低い」とされる産業もいろいろ国内に残しておくことが重要です。

国内生産能力が残っていれば、通貨価値が下がると輸出が増えて通貨価値下落に必ず歯止めがかかります。だから日銀が国債を買い支えて十分な赤字政府支出を行い円高を防ぐことは、将来的な円暴落を防ぐためにこそ必要だということになります。

この連載は大幅に加筆修正した後、講談社現代新書から刊行する予定です。