残るのはチェーン店と大企業だけ
それゆえ、消費税10%の世界とは、地域の経済やコミュニティを担い、人々の生業の場となってきた、個人商店や中小零細事業が、もはや立ちいかなくなって一掃され、スケールメリットのある全国チェーン店やグローバル大企業ばかりが生き残る世の中だと言えるでしょう。
これは、単に当時景気が後退しはじめていた時期だからという話ではありません。賃金が年に3%も4%も上がるとか、消費者の人口が増えるとかしないかぎり、必ず起こることだと言えるでしょう。
たしかに、一部には、特別才覚や技能に恵まれた業者がこれからも生き残ることでしょう。でも大事なことは、特別才覚や技能があるわけではない普通の庶民が、普通にお天道様に恥じない仕事をして、コミュニティの中に居場所を持って生活していけることです。そういう普通の庶民の生業の場が断たれてしまうのが問題なのです。
その代わり、全国チェーン店やグローバル大企業が食いつなぐ場を提供することになるでしょう。しかしそこで働く人たちの多くは非正規の低賃金労働者ということになります。低賃金でも、割高な地場の農家や中小零細企業の産物を買わなくても、円高による激安輸入品があるから生きていけるということになります。
「ショックドクトリン」の衝撃
こんな中でのコロナ禍です。これは支配層の進めてきた路線から言えばチャンスと言えます。
生産性が低いとされる個人事業者や中小零細事業者が、消費税で打撃を受けた上に、さらにコロナ禍の打撃を受けますので、淘汰を大きく進めることができますから。
5月12日に政府のコロナ対策の「基本的対処方針等諮問委員会」の委員の一人に決定した小林慶一郎さんが、3月17日に、佐藤主光さんといっしょに「発起人」として出した東京財団政策研究所のコロナ対策の緊急提言は、まさしくこうした意図のもとに、コロナ禍をチャンスにして産業構造の転換を進める「ショックドクトリン」を打ち出したものでした。
これについての私の詳しい評論については、下記のウェブ記事をご覧ください。
(ダイヤモンド・オンライン:「構造改革」重視のコロナ対策ではスカスカの格差社会を生む)
簡単にまとめますと、生活支援のために使うお金は対象者を絞り、消費税減税はせず、政府支出は需要不足を補うためではなく生産性を高める分野に投資し、中小企業支援は融資を中心とし、企業の新陳代謝を促すために中小企業の廃業を支援するという提言です。
「生産性の低い」業種を生き残らせたくない?
後日発起人のお二人は「フォローアップ」の動画を公開されていて、その中で、この基本精神を端的に「社会政策と経済政策を切り離す」と表現されています。
その間に出された政府の経済対策に需要喚起の要素が入れ込まれていることを批判して、「我々の提言は需要喚起策ではない」とおっしゃっています。
つまり、困窮者があふれて社会不安が増してはかないませんので、最低限の緊急避難的支援はする。
しかし消費税減税や一律給付金のような大衆の生活点で需要が発生するやり方では、せっかくコロナ禍で淘汰されそうな商店街などの「生産性の低い」とされる業態に需要が発生して息を吹き返すので、産業構造の転換が進まなくなる。
だから、困った人の緊急支援は、なるべく経済的に需要にならないように最低限に絞る。個人事業や中小企業はあとでお金を返せそうなところだけ助け、そうでないところはスムーズにやめられるよう支援する。
財政は主として、生産性を高めるデジタル化推進のために投資するというわけです。これが「社会政策と経済政策を切り離す」という意味だと思われます。