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日本の支配エリートはコロナでもたない企業は潰れてよいと思っている

反緊縮左派が試されるとき(5)
この四半世紀にわたり追求されてきた政策の多くが、円高を背景とした国内産業の空洞化に帰結するものである​、と経済学者・松尾匡氏は分析します。政策を立てる人々は、コロナ禍で起こる個人商店・中小企業の淘汰さえも、産業構造の転換として歓迎しているのではないか――そう考えざるを得ないエリートたちの言動に警鐘を鳴らすのです。経済の視点から新しい左派を考えていきましょう。

第1回:私利私欲を度外視した公共的理性が、唯一無二の生命を犠牲にする
第2回:新自由主義による悲惨な現実を解決できるのは、左派ポピュリズムです
第3回:
左派ポピュリズムが日本で望まれ、「反緊縮」を装う新維新が躍進?
第4回:「高プロ」も愛国教育も、支配エリートの新「帝国主義」への布石か?

ゾンビ企業は淘汰されればいい?

前回述べたのは、日本の支配層は人口減少する日本市場に見切りをつけて海外でもうける方向に舵を切っているということでした。

その行き着くところは、アメリカ抜きTPPで東南アジアに経済圏を作り、ISDS条項や自衛隊海外派兵で進出資本を守る地域帝国主義に向かっているのではないか。

このかん、政府のやってきたいろいろなことが、意識的か無意識かはともかく、それとつじつまが合うと論じました。

これは、この四半世紀以上にわたって、この国の政財官マスコミのエリートが保守、リベラルを問わず、倦まず弛まず追求してきた路線の必然的な帰結です。

曰く、日本経済は高度経済成長時代のモデルからの産業構造転換ができずに生産性が停滞して国際競争に負けてしまっている。

それは、生産性の低いゾンビ企業やゾンビ産業が規制や円安で温存されているからだ。時代遅れの製造業はアジア新興国に任せればよい。

これらを淘汰し、高付加価値部門に生産資源を集中しなければならない——こういった問題意識から規制緩和や財政支出削減が進められてきました。

何も悪いことをせずに真面目に仕事をしてきた人たちを、採算に合わないだけで「ゾンビ」扱いするなんて、仮に本当に社会のニーズに合わなかったとしても見識を疑う言い方です。

ましてやただ不況で人々の所得が足りないせいで採算がとれなくなっているだけで、本当は人々のニーズの高い仕事をしている業者はたくさんいたでしょうに。

 

零細事業者を苦しめる消費税引き上げ

消費税の引き上げも、こうした淘汰の手段として機能してきました。

特に2019年10月に消費税を10%に引き上げたせいで、日本経済はコロナ前から不況に突入していましたが、商店街の個人商店など、中小零細事業者の打撃は大きいものがあります。

なにしろ、コロナショック以前の段階でも、消費者物価指数の上昇率が前年の同じ月と比べて1%に達したことはありません。最高の12月でも0.8%です。

「いやいや、アルコール飲料以外の食料品は軽減税率で8%のままだから、2%も上がらなくて当然でしょ、そんなもんなんじゃないの?」とおっしゃるかたがいらっしゃるかもしれません。

しかし、内閣府の「家計の目的別最終消費支出の構成」によれば、実質消費額に占める非食料とアルコール飲料の割合は消費税率にかかわらず長年一定の約86%です。ちゃんと消費税を売値に転嫁できているならば、2%×0.86=1.72%は物価が上がらなければならないはずです。

上がった消費税に売値が比例していない(photo by iStock)

「いやいや、原油価格が下がってるから、そのせいでしょ」とおっしゃるかたがいらっしゃるかもしれません。でも、エネルギー価格は12月で0.6%しか下落していません。これが全部売値の低下に反映されるという、あり得ないことを想定したとしても、消費税を売値に転嫁できているならば、1.12%は物価が上がらなければならないはずです。

ところがそうなっていないということは、たくさんの業者が売値に消費税上昇分を転嫁できず、自分で負担していたということです。

消費者はみんな懐が厳しい中で一生懸命やりくりして生活しているのです。ちょっとでも売値を上げたらお客さんが逃げてしまいますから転嫁なんかできません。

こんな状態で体力のない個人業者や中小零細業者がいつまでもやっていけるはずはないですよね。多くの業者はどこかで息切れしてしまいます。