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ナチ政府の「安楽死プロパガンダ映画」が、私たちに教えてくれること

回帰するナチズム

京都に住むALSの女性患者を死に至らせた医師が逮捕され、安楽死に関する議論に注目が集まっている。ここでは、第二次大戦中のナチ政府下で作られた映画から、安楽死を問い直す。

一本の映画

ある映画をこれから紹介する。この映画のことを忘れないでいてほしい。本稿の目的は、この映画を2020年の今、日本語であらためて、一人でも多くの人に伝えることに尽きる。

主な登場人物は三人。一人はハナ・ハイトという女性。もう一人は、ハナの夫であり、病理学者のトーマス・ハイト。そして、もう一人、ハナとトーマスの友人である医師のベルンハルト・ラング。トーマスとラングは幼なじみで、大学でも医学を一緒に学んだ。トーマスは研究の道に進み、大学教授(病理学)となり、ラングは臨床の道に進み、開業医となる。トーマスはラングを通じてハナと知り合い、結婚するのだが、周囲の者は、ハナと結婚するのはラングだと思っていた。ラングは結婚せず、ハナとトーマスの友人であり続ける。

トーマス、ハナ、ラング〔PHOTO〕『Ich klage an (I accuse)』、1941年(DVD、International Historic Films, Inc.)

 

ハナとトーマスの生活は幸せそのものだった。ところが、トーマスがミュンヒェンのペッテンコーファー研究所に所長として招聘されるという知らせが届いた頃から、ハナの身体に異常があらわれ始める。階段でつまずく。手がしびれてピアノが途中で弾けなくなる。目も見えにくくなる。トーマスはハナに、友人のラングに診察してもらうよう薦め、ハナはそうする。

ラングがハナに下した診断は「多発性硬化症」だった。多発性硬化症は神経疾患の一つで、30歳前後で最も多く発症すると言われている。多発性(multiple)というのは、いろいろな症状が出るという意味で、視覚障害、歩行障害、手足のしびれや運動麻痺といった症状が見られる。