時間の大きさをまじめに測ったら消えちゃったって、どういうこと!?

時空の量子化を目指す2つの理論を検証
高水 裕一 プロフィール

「時は無知なり」…… ゆえに議論は続く

なんと、「時間は逆戻りしないのか」を追いかけて、その「大きさ」を検証していたら、時間そのものが消えてしまいました。そこまでしなくても、と言いたい気持ちにもなります。でも、ロヴェッリからすれば、「逆戻り」というテーマ設定がそもそも「時間とは流れるものという幻想に縛られているのだ」と言いたいところかもしれません。

量子力学の重要な性質に、ab≠baというものがあります。「量子の非可換性」といって、量子aと量子bをかける順番には厳然とした順序がある、ということです。量子の世界ではミクロの量子は揺らいでいるため、量子の位置が確定してから速度が確定した場合と、速度が確定してから位置が確定した場合では、量子の状態に違いが生じるためです。一方向にしか進まない時間の流れは、じつはこうした量子の非可換性から生まれているとも考えられています。

ロヴェッリの論旨を意訳すると、abとbaがイコールだと思っているのは、私たちが無知だからです。私たちがこの世界を、非常に粗く、ぼやけた見方でしか認識できないために、同じに見えているにすぎないというのです。

そして、エントロピーなるものが存在しているように見えるのも、私たちが世界を曖昧なかたちで記述しているからであり、かりにミクロなレベルでの量子の状態を完全に知ることができたら、エントロピーが示す時間の一方向性も消えると断言しているのです。

ロヴェッリは、「物理学における〈時間〉とは、結局のところ、私たちがミクロの世界の詳細を知らないために生じているものなのだ」と結論づけたあとで、こう言い添えています。

「時とは、無知なり」

私自身は、「時間が揺らぐ」という発想は興味深いと思いますが、「時間が消える」とまで言いきるには、まだいささか論理の飛躍があるように感じます。

そして、ループ量子重力理論に取り組む研究者が増えにくい理由の一端には、物理学者といえどもぬぐい去れない、時間に対するタブーのような感覚があるようにも思います。

時間を量子化できるかという問題には、このように時間の本質にかかわる多くのテーマが隠れていて、まだまだ熱い議論が続きそうです。

【イラスト】時間の本質について、まだ熱い議論が続きそうだ時間の本質にかかわる多くのテーマが隠れていて、まだ熱い議論が続きそうだ

この記事は、ブルーバックス 『時間は逆戻りするのか』より作成しました。

時間の不思議と逆戻りの謎を巡る旅、連載「時間は逆戻りするのか?」
次回は、9月24日の配信予定です!

好評の過去記事はこちらから

時間は逆戻りするのか
宇宙から量子まで、可能性のすべて

「時を戻そう」は本当に可能になるかもしれない!

一方通行と考えられてきた時間は近年、逆転する現象が観測され、なんと「時間が消えるモデル」までもが提唱されている。ケンブリッジ大学理論宇宙論センターで晩年のホーキングに師事した「最後の弟子」が語る、新しい時間像。読めば時間が逆戻りしそうに思えてくる!

本書の次元数の考察では、空間の次元数についても深く考察。時空の次元がより"立体的"にわかります!!

amazonはこちら