時間の大きさをまじめに測ったら消えちゃったって、どういうこと!?

時空の量子化を目指す2つの理論を検証
高水 裕一 プロフィール

量子重力理論の候補たちは、時間をどう考えるのか

重力と量子を統一的に扱える量子重力理論というものが本当に存在するなら、それは超弦理論なのか、ループ量子重力理論なのか、それとも何か別の理論なのか、もちろんまだまだ結論が出せることではありませんが、答えはこのうちのどれかになるはずです。

どちらの理論にも、現実の観測にもとづく証拠があるわけではないので、直接に正しいかどうかを検証することはできませんが、拙著『時間は逆戻りするのか』では、「答えがわからない問題について、説得力ある根拠をもって回答を予言できるか」という観点から、両者を比較しましたので、ぜひ読んでみてください。

ここでは、これらの量子重力理論の候補は、私たちの旅のテーマ「時間の逆戻り」について、なんらかの可能性を示してくれるのか、ということを検証してみましょう。

じつはループ量子重力理論は、時空を量子化して、時間にも素粒子サイズの「大きさ」があることを示しただけではなく、ついには時間の存在そのものを消してしまいました。逆戻りどころではありません。ここでは、この驚きのマジックを、ロヴェッリの著書も参照しながら種明かししてみようと思います。

時空は一定不変ではなく重力によって伸び縮みすることを明らかにした一般相対性理論と量子力学を統一的に扱うために、超弦理論では時空は本質的にそのままにして、重力を量子化することを考えました。そのために、重力子などの素粒子が弦でできていると仮定します。

【写真】時空と重力時空はそのままに、重力を量子化することを考えた photo by gettyimages

それに対して、ループ量子重力理論が考えたのは、重力が伝わる「場」、すなわち「重力場」の量子化でした。

物理学では、場は物質としての実体をもっていると考えられています。そして量子力学にしたがえば、物質はすべて素粒子でできているので、重力場も素粒子でできていることになります。この重力場こそ、重力を伝える時空にほかなりません。つまり、空間も時間も、素粒子でできているというわけです。これが、ロヴェッリが考えた時空の量子化です。

時間も量子世界の一員ということになると、たちまちぶっ飛んだことが起こってきます。その1つが、揺らぎです。

揺らぎは時間と空間の区別さえ崩壊させる

素粒子である時間は不確定性原理によってあっちこっちに揺らいで、位置や速度を決めることができません。〈シュレーティンガーの猫〉で、箱の中の猫が「生きている」か「死んでいる」かに決まるのは、あなたが箱を開けて中を観測したときである、ということのように、誰かが観測したときに決まるのです。

たとえばアインシュタインが考えた、因果律を表す光円錐も揺らぎます。光円錐では、光が進む線を表す境界線は、斜め45度に描かれます。ところが、時空が揺らぐと光円錐も揺らぎ、時間を表す方向が空間を表す方向になるといった、時間と空間の入れ替えが起こると考えられているのです。

【図】時空の揺らぎ時間と空間が入れ替わる。時空が揺らぐと、光円錐も揺らいで時間方向が空間方向になる

この現象はブラックホールの内部でも起きていると考える研究者もいます。そこで
は、もはや空間と時間の区別さえ崩壊しているというのです。想像を絶する状況です。まあ、このあたりの話は抽象的すぎますが、あれだけ堅物に思えた時間も量子世界に仲間入りしたとたん、ならず者になってしまうということです。

時間が消えた!?

そんな(ほかのあらゆる物質と同様に)あやふやなものを、あえて「時間」と呼んで特別扱いする意味があるだろうか。ロヴェッリはそう考えました。

時間とは、あらかじめ決められた特別な何かではない。時間は方向づけられてなどいないし、「現在」もなければ、「過去」も「未来」もない。だとするなら、あるのはただ、観測されたときに決まる事象どうしの関係だけだ。これまでは量子力学も、時間の発展を前提としていたが、もはや時間は表舞台からきれいに姿を消してしまった。時間とは、関係性のネットワークのことである。

これがループ量子重力理論の本質です。いわば複数の絵を一つのストーリーに沿って見せていく、紙芝居のような時間は幻想であり、たとえば2枚目と5枚目の関係を示すものにすぎないというわけです。

物理学では、「すべての方程式は、時間的に発展することを暗に前提としている」という大命題があり、量子力学の方程式もその例外ではありませんでした。しかし、時間が未来へ発展するものではなく、ただ関係性を表すものにすぎないとされたことで、時間は方程式の中に溶け込んだのです。