時間の大きさをまじめに測ったら消えちゃったって、どういうこと!?

時空の量子化を目指す2つの理論を検証
高水 裕一 プロフィール

高次元世界で弦を奏でる「超弦理論」

超弦理論は、簡単にいえば、素粒子を大きさがゼロの点ではなく、長さをもつ「弦」と呼ばれるものであると考える理論です。

そうすることで、ゼロで割ると無限大に発散するという超難問を回避しようという発想です。弦はそれぞれが振動していて、その動きぐあいでどんな素粒子かが表現されます。弦は「ひも」とも呼ばれるため、「超ひも理論」という呼び方もされています。

超弦理論のもう1つの大きな特徴は、9次元の空間と1次元の時間という、きわめて高次元の時空を考えることです。

ごく大づかみにいえば超弦理論では、物質をつくる「フェルミ粒子」(あるいはフェルミオン)と、力を媒介するボース粒子には対称性があると考えます。これをとくに「超対称性」といいます。

そして、この原理とさまざまな計算の結果がうまくかみあうよう整えていくと、結果として9+1という高次元の時空になるというのです。そして、私たちにとっては余分な6次元の空間は、人工的な「コンパクト化」と呼ばれる収縮をして、目に見えないようになると考えます

また、超弦理論では、弦は2種類あると考えます。1つは、両端に何もないひも状のもので、もう1つは、両端がくっついて輪になったものです。前者を「開いた弦」、後者を「閉じた弦」といいます。そして、物質をつくるフェルミ粒子や、電磁気力などの力を伝えるボース粒子は、開いた弦であり、重力を伝える重力子だけ、閉じた弦で表現されると考えるのです(下図)。

超弦理論の2種類の弦超弦理論の2種類の弦。開いた弦(右)と閉じた弦が振動しているイメージ

さて、自分で説明しておいて恐縮ですが、ここまでの話が「理解できた」と思っている方は、おそらくほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。なにやら煙に巻かれた気がしているのではないかと思います。

しかし、このあたりを丁寧にやるとそれだけで1冊の本になってしまいますし、正直にいうと、理解できなくても、とりあえず今回のお話を読んでくださるうえで不都合はありませんので、超弦理論ってこんなものなんだなと思っていただければ良いかと思います。

新たな時空モデルを構築した「ループ量子重力理論」

さて、もう1つの有力候補、ループ量子重力理論は、第3回の「量子力学は、アインシュタインも認めた"因果律"を破れるか」でもちょっと登場したイタリアの物理学者カルロ・ロヴェッリが提唱したものです。

【写真】カルロ・ロヴェッリイタリアの物理学者カルロ・ロヴェッリ photo by gettyimages

この理論では、時空は3次元の空間と1次元の時間という現状どおりの設定になっています。その点は超弦理論に比べると、とても落ち着きます。

ただし、時空の扱いを、量子的に「離散的なもの」として取り扱います。

第3回の記事で量子力学の奇妙な性質として、「エネルギーの量は飛び飛びの値をとる」という話をしました(第3回「怪・その1 時間の流れは連続的ではない!?」)。量子力学で、エネルギーがとる値は間のない連続的なものではなく、飛び飛びの不連続なものになるということを「離散的」といいます。

これと同じように、連続的と思われていた時空もじつは不連続で、空間も時間も飛び飛びの編み目のように離散的な構造をしていると考えるのです。

具体的には、「ノード」と呼ばれる点と、それらを格子状に結ぶ「エッジ」と呼ばれる線からなるネットワークで、時空の全体が表されると考えます。

このイメージは、鉄道やバスの路線図や、電気回路などをつくるときに「つながり方」を考えるときや、最近ではSNSのような社会的なネットワークの問題を解くときにツールとして有効ともいわれる、数学の「グラフ理論」に似ています。

ループ量子重力理論が予言する時空のネットワークでは、「スピン」と呼ばれる素粒子の回転の方向が重要な意味をもちます。そこで、このネットワークはしばしば「スピンネットワーク」とも呼ばれます。そしてスピンネットワークには、重力を表す「輪っか」があることから、ループ量子重力理論の名がつきました。

ループ量子重力理論とは、このように時空を離散的に扱うことで、空間や時間にはそれ以上は分割できない最小単位があることを示す理論です。そうすることで、時空そのものを量子化し、さらに最小限の「大きさ」を与えることで、先ほど申し上げた「ゼロで割る」という発散の問題も回避しているのです。ここに、超弦理論との本質的な違いがあります。

超弦理論では、9+1=10次元という高次元の時空を想定しますが、それは既存の4次元時空に、人工的にコンパクト化した6次元空間をくっつけたものであり、その意味では、一般相対性理論からみちびかれた時空の概念を大きく変更するものではありません。

一方のループ量子重力理論は、時空の量子化をめざして、一般相対性理論とも量子力学とも異なる「飛び飛びの時空」という新たな時空モデルを構築しています。

【図】ループ量子重力理論が考える時空ループ量子重力理論が考える時空。スピンを結ぶネットワークで形成される

では、本当に時空が飛び飛びの量子だとしたら、空間や時間の最小単位はどのくらいのサイズなのでしょうか。

ミクロ世界に描いた壮大な夢の結晶

ループ量子重力理論の提唱者ロヴェッリは、それは「プランクスケール」になると考えています。プランクスケールとは量子力学の生みの親ともいわれるプランクが示した、自然界のさまざまな量について極小と考えられる値の総称で、プランク長(長さの単位:10のマイナス33乗cm)、プランク温度(温度の単位)、プランク時間(時間の単位)などがあります。

このうち、プランク時間は、光子がプランク長だけ進むのに要する時間と定義されていて、それは10のマイナス44乗秒というオーダーです。1億分の1秒を10億分のにして、さらに10億分の1にして、さらに……またさらに……と4回やったらこうなります。

時空を量子化すると、空間はプランク長に、時間はプランク時間になるとロヴェッリは考えています。

著書『時間は存在しない』によれば、彼は大学時代に「10のマイナス33乗(=プランク長)」と書いた紙を寝室に掲げ、「このスケールの世界で何が起きているのかを理解すること」を、自分の目標としたそうです。人間がとらわれているマクロな時空の制約から自由になり、ミクロの世界を理解したいという壮大な夢が、この理論の原動力だったのでしょう。