時間の大きさをまじめに測ったら消えちゃったって、どういうこと!?

時空の量子化を目指す2つの理論を検証
高水 裕一 プロフィール

"重力"は、「力」一家の変わり者!?

この世の自然現象は、地球のみならず宇宙のいかなる場所においてもすべて、基本と
なる4つの力として、次の4つのものがあります。

自然界で基本となる4つの力

(1)電磁気力
電気の力と磁気の力。重力を除く、私たちがふだん感じている「力」。電子と原子核を結びつけて原子をつくる力や、原子どうしを結びつけて分子をつくる力も含まれる
(2)強い力
素粒子中のクォークを結びつけて陽子や中性子をつくり、さらに陽子や中性子を結びつけて、原子核をつくる。私たちがふだん感じるにはスケールが小さすぎるけれど、強い絆となる力
(3)弱い力
原子核のベータ崩壊、中性子の崩壊など、素粒子には時間がたつと崩壊する性質をもつものがあるが、その原因となる力。電磁気力よりもはるかに弱いことから、名づけられた
(4)重力
いわゆる「物体の重さ」として、私たちが最も身近に感じている力。質量をもっているすべての物体に働く、普遍的な力

この世の自然現象は、地球のみならず宇宙のいかなる場所においてもすべて、基本となる4つの力のどれかによって起こる。なお、(1)〜(3)の3つの力は、「ボース粒子」(あるいはボゾン)と呼ばれる素粒子を媒介として力を伝えることが、量子力学の進展により明らかになった

このうち、重力は、ほかの3つの力のように素粒子の働きとして理解することが、いまのところできていません。宇宙で重要な力であるにもかかわらず重力だけが一般相対性理論を起源としていて、量子力学とはつながっていないのです。

ほかにもいろいろ、重力の変わり者っぷり

また、4つの力の中で重力はとんでもなく小さいのです。大きさの順番は、

強い力>電磁気力>弱い力>重力

となるのですが、ここで電磁気力=1としたときの、それぞれの力の大きさを比率で示すと、強い力は、10の6乗なので、1000000です。弱い力は、10のマイナス4乗なので、0.0001となります。

では重力はといえば、なんと10のマイナス36乗です。したがって、0.0000000000000000000000000000000000001ということになります。いくらなんでも、ほかの3つと違いすぎます!

重力には、さらに不思議な特徴があります。相手に対して、引力しか及ぼさないのです。ほかの3つの力は、相手を引きつける引力と、相手を遠ざける斥力(せきりょく)をバランスよくもっているのに、なぜか重力だけは一方通行なのです。そこには、「時間の矢」と同じ匂いをほんのり嗅ぎとることができる気もします。

ただ、ほかの3つの力は引力と斥力が相殺されて大きな力にはならないことが多いのに対し、重力は一方通行だからこそ、引力だけがどんどん遠方にまで伝わっていきます。しかも重力は質量さえあればどんな物質にも作用します。

大きなスケールで見れば、あのダークマターやダークエネルギーにも、その力は及びます。4つの力のうち、広大な宇宙において、とんでもなく小さい重力の支配が圧倒的に上回っているのです。

このように4つの力の中で重力が、きわめて異質で特別な存在であることは、どの星であろうと、間違いないでしょう。

あるとき、講演をしていて学生に、「映画の『スター・ウォーズ』のフォースのような力って、本当にあるんですか?」と聞かれたことがあります。

そのとき私はこう答えました。「もしあるとしたら、必ず4つの力に入っているはずです。そして、可能性が最も高いのは重力でしょう。ダークマターにも作用する重力を操れれば、手を触れずに遠くにあるものを引きつけることもできます。重力を真に理解できれば、宇宙の支配者になれるかもしれません(笑)」

重力を操れれば、マスター・ヨーダのようにXウイングも持ち上げられる?

ちょっとあおりすぎたかもしれませんが、若い人には自身が死んでから100年たってようやく実を結ぶほどの壮大な研究に取り組んでほしいとの思いから、こんな答えになってしまいました。願わくは、彼の志がフォースとともにあらんことを。

4つの力すべてを統べる理論「宇宙重力理論」の実現

さて、重力のように重要な力を量子力学で扱えないことは、物理学にとっては大問題です。重力も量子力学で統一的に扱いたい―これは物理学の究極の目標ともいえます。我が師・ホーキング博士もそれを可能にする理論を「Theory of Everything」(=すべてを説明できる万能理論)であると位置づけ、完成させることを夢見ていました。

こうした物理学者の願望は、いま(1)電磁気力と(2)弱い力をまとめるところまでは「電弱統一理論」、あるいは貢献者の名をとって「ワインバーグ=サラム理論」によって実現されました。次は、これと(3)強い力をまとめた「大統一理論」が、まだ未完成ながら、力を媒介する素粒子が明らかになっていることから、道筋が見えてきています。

問題は、現在「量子重力理論」と呼ばれる、重力を含めた4つの力すべてをまとめることにあります。

【表】4つの力の特徴と、理論の統一4つの力の特徴と、理論の統一。最初に枝分かれした重力を統一するのが物理学者の悲願

「量子重力理論」確立のネックは"ゼロ"

量子重力理論をつくるうえでの困難は、重力を量子化するにあたって、重力を媒介する素粒子(たとえば重力子と仮定されているもの)には大きさがないことです。これは重力にかぎった話ではなく、物質の最小単位である素粒子は、極小の「点」ですが、この点には大きさがないのです。すると、困ったことが起きます。

みなさんは数学で、絶対にやってはいけないことが1つだけあるのをご存じでしょうか。先生の頭を叩くこと? 違います。そう、ゼロで割ることですね。どんな数であれ、ゼロで割る割り算は、「発散」といって答えが無限大になってしまって決められなくなるので、禁止されているのです(まあ違反しても罰金をとられるわけではありませんが)。

そして素粒子に大きさがない、つまり大きさがゼロだと、量子力学に必要な計算をやっていくうえで、どうしてもゼロで割るという禁じ手を犯さなければならなくなってしまうのです。

電磁気力の場合は「繰り込み」といって、問題をよりミクロな世界に押しつけることでこのピンチを切り抜けましたが、自然界の最も基本となる空間や時間(時空)を相手にする力である重力は、もうほかに押しつけられるところがありません。ここに量子重力理論の難しさがあります。

じつは、21世紀になって20年が経ついまも、どうすればいいのか、軸となるアイデアは定まっていないのですが、その有力候補とされるアイデアは2つ提唱されています。1つは「超弦理論」、もう1つは、「ループ量子重力理論」です。