もちろん、衝突安全基準が日本の基準に合わないとか、国内では受け入れられにくい点はいろいろとある。排ガス規制も現地で売っているものをそのまま日本に持ち込んでも適合しない。ただ、その点は日本で作っているエンジンを載せ替えればいいだけのはずだ。
国沢:日産が最近売り出しした「キックス」も、もともと東南アジア専用車で、排ガス規制も衝突安全性も基準を満たしていませんでしたが、日本仕様に手を加えたら、かなり好評です。つまり、作る気になれば作れるし、売れた実績もあるのに、あえてやらないのは、ユーザーのニーズがわかっていないとしか思えません。
リーズナブルでいいクルマを売ってしまうと、既存の車種が割高に感じて売れなくなる危険がある。だから売らないのでは?と勘ぐりたくなるかもしれませんが、今の日本の自動車メーカーにそんな悠長なことを言っている余裕はありません。
東南アジアは人件費が安いからあんなに低価格で作れるけど、国内で作ると同じクルマでも高くなってしまうのではないか。そう思う人もいるかもしれないが、それも誤解のようだ。
国沢氏によれば、世界でクルマを一番安く作れるのは日本だという。東南アジアは確かに人件費が安いけど、工場の機械化が遅れていて、多くの作業に人を使っている。それに比べて日本はOA(オフィス・オートメーション)化が進んでいるため、トータルのコストは日本の方が断然安いのだ。
実際、ホンダの「フィット」などタイでも生産して販売しているが、国内価格より高いくらいだし、先に紹介したホンダの「BR-V」も現地価格を現在の為替レートで換算すれば、270万円程度だが、日本で作れば170万円程度になるはずだ。
そうなると、次に気になるのが、なぜ世界で最も安く作れる日本では安くてワクワクするクルマが出てこなくなったのか、ということだ。