猛暑が続くが、暦の上ではすでに秋。昼は真夏の暑さでも、夜空の月はどこか涼しげだ。
月は秋の季語だ。『新歳時記』(平井照敏編、河出文庫)には「月は四季いずれにもあるが、特に秋の月が清明であるため、秋を月の季節とする」とある。
太古の昔から人間は月を見上げてきたが、NASAのある研究チームはこの10年間、また違った思いで月を見つめてきた。
NASAの月観測衛星「ルナー・リコネサンス・オービター※1」は、2009年に打ち上げられ、今でも月の周りを回っている。NASAゴダード宇宙飛行センターの研究者らはこの衛星に搭載された反射装置に向けて、レーザー光を送り続けてきた※2。
そして10年がかりで、地球とルナー・リコネサンス・オービターの間で光を往復させることに成功したことを、8月6日付けの論文※3で発表した。
成功までに10年かかったのはわけがある。レーザー光でねらう、ルナー・リコネサンス・オービター上の反射装置の大きさは15×18センチ。単行本ほどのサイズしかない。
しかも、このターゲットは月の周りを回っている。さらに、ルナー・リコネサンス・オービターの軌道にもぶれがある。月の重力が場所によって微妙に違うせいだ。
地球側の問題もあった。打上げ後の数年は、天候や、レーザー施設の運用上の問題、地球とルナー・リコネサンス・オービターとの位置関係などが原因でうまくいかなかったという。
その後、月の詳しい重力地図が作成され※4、ルナー・リコネサンス・オービターの位置をより正確に予測できるようになった。また、フランスの施設と協力して、地球の大気の影響を受けにくい赤外線レーザーを使うようにした。
その結果、2018年と2019年に合計数万個の光子を送り出すと、約200個が戻ってきたという。約38万キロ(地球半径の30倍)の往復にかかった時間は約2.5秒。まばたき1、2回程度の時間だ。