「ついこの間会った人は写真だと素敵だったのに笑ったら歯がガッタガタで。即ムリ!って感じで、時間の無駄だったし……」

彼女の話を聞いているうち、直彦はまだ前菜に手をつけたばかりだというのにお腹がいっぱいになってきた。むしろ胸ヤケまで感じる。

「せっかく会ってもずーっとスマホ弄ってる男もいたな。何しに来たの?って言ってやりたかった」

「……」

一切の口を挟む間もないほど、美緒の「アプリの男ディス」は延々と続く。自分もイメージと違ったと思われてやしないかと不安になるし、非常に居心地が悪い。

次第に精力を奪われぐったりとしてきて、直彦は不本意ながら諦めモードに入ってしまった。

その後は心を無にしてひたすら彼女の愚痴を聞き続け、デートを終えて自宅に戻ったときには疲労困憊、そのままシャワーも浴びずに寝てしまった。

全男が震える、恐怖の「Twitter婚活垢」

事件は、それから3日後に起きた。

出社途中に偶然会った淳也とホームで電車を待っていると、スマホを弄っていた彼が苦笑いで語りかけてきたのだ。

「なぁ、これ見ろよ。婚活女のツィートってマジで地獄だな」

そう言って見せられたのは、後ろ姿をアイコンにした見知らぬ女性のTwitterアカウントだった。

普段Twitterをしない直彦が戸惑っていると「見てみろ。エグいから」と促され、不慣れな手つきでスクロールしてみる。

“30歳/ITベンチャー 168cmはそもそもナシ。背が低いの無理。暇だからとりあえずデートしたけど、焼き鳥屋で30分も待たされイライラ。「俺、M ちゃんのこと割と本気」ってさぁ、本気なら店くらい予約しろよな”

“33歳/メガバン 174cm マッチングしていい感じでデートに誘われたのに、当日待ち合わせ時間15分すぎても来ない。LINE聞いてたから連絡したら未読スルー。は?ドタキャンかよ?!いい大人がありえないでしょ。サイテー男!”

……そこには、ただひたすら「アプリで出会った男たちがいかに最低であったか」が延々と投稿されていた。

「こんなとこに晒されて男が可哀想すぎる。婚活垢の女とだけは出会いたくないよ……」

淳也のセリフに「だな」と肯きつつ、直彦は美緒とのデートを思い出さずにいられなかった。再び胸ヤケを覚え、これ以上見るのはやめようと最新の投稿に戻る。

すると、その時。信じられないツィートが目に飛び込んできた。

“29歳/商社マン 184cm ヒョンビン激似。自分からいいねしてマッチング。職場近くのイタリアン予約してくれたし浮かれてたけど会ってみたらマジ退屈。全然喋んないからずっと私が喋ってるし。わかってたけどイケメンってつまんないんだよね。イケメンでもつまんない男はムリって再確認しただけだった”

――ちょっと待て……。

29歳、商社マン、184cm、ヒョンビン似、職場近くのイタリアンを予約って……。

まさかと思い、慌てて再度アカウント名を確認する。するとそこには『M@婚活垢』の文字があった。

――こ、これって……『M30歳』なんじゃ……。

背筋をツーっと冷や汗が流れる。

「確かに、これは地獄だな……」

放心状態でスマホを淳也に返し、直彦はそのあと一言も発せず黙りこくった。

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アプリ出会って10分。初対面の男の家に向かった留美は、意外に良縁を掴んだように見えたが……?
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