自粛警察とは、外出や営業など自粛に応じない個人やお店に対して、非難の電話・貼り紙や行政への通報など、私的な「取り締まり」をする市民のことである。最近では、県外ナンバー車を攻撃する「県外ナンバー狩り」、お盆に帰省した人を罵倒する手紙を貼り付ける「帰省警察」や、マスクを外している人を非難する「マスク警察」などもあらわれている。
いうまでもないが、取り締まりが過激化して威力業務妨害などの違法行為になることはあるが、自粛に応じないことは、何ら「法のルール」に反する行為ではない。
気になっていたことがある。この「自粛警察」という言葉、もともとはネットスラングらしいが、ネーミングが言い得て妙だともいえる。だがよく考えてみると、じつは形容矛盾ではないのか。
というのは、「自粛」は、するかしないかはあくまでも個人やお店の任意で、これは「世間のルール」に属する概念だが、「警察」は、法にもとづいて違法行為を強制的に取り締まるお役所であり、「法のルール」に属する概念だからだ。
つまり語の本来の意味では、「自粛」が「警察」につながるはずもなく、これは形容矛盾以外の何ものでもない。「自粛」を強制する「警察」など原理的にありえないからだ。この点では「自粛命令」というのも同じで、あくまでも任意の「自粛」と強制を意味する「命令」は、相互に矛盾する概念であって、この二つはつながらない。
にもかかわらず、自粛警察という言葉を誰も不思議に思わないのは、日本人は伝統的に「世間」にがんじがらめに縛られてきたので、「世間のルール」が「法のルール」と区別されず、ほとんど同じと考えられるからである。すなわち、「法のルール」に反しない行為であっても、「世間のルール」に反しているだけで、あたかも犯罪でもおかしたかのように、極悪非道の行為とみなされる。
そのため、自粛に応じないものに対して、法的根拠もなく、事実上の「処罰」を自粛警察がおこなっても、「世間」にはあまり抵抗感がない。その結果、「オミセ シメロ」「この様な非常事態でまだ営業しますか?」「自粛してください。次発見すれば、警察を呼びます」などという非難や中傷が席巻することになったのだ。