「父より先に死んだぼくは、地獄に落ちますか?」12歳の祈り

津波が生んだ霊体験【後編】
奥野 修司 プロフィール

もう1人の男の子

カミングアウトする背景には2人の男の子の憑依体験があった、と彼女は語っていたはずだ。流れからして、前編で紹介した5歳の男の子ではないだろう。

1人が先述の高校生だとすれば、あと1人はどんな男の子なのだろう。先ほどから気になって仕方がなかった。

「もう1人の男の子というのはどういう子だったんですか?」

私が尋ねると、彼女は柔和な表情を浮かべた。憑依された体験に関しては、露骨に嫌悪の表情を見せる彼女だが、この時ばかりは寸分もそんな気配を見せなかった。きっと、その体験は過去の憑依とはまるで違った印象があるからだろう。

「12歳で小学校の卒業式が終わったあと、中学に入学する直前に震災で亡くなった男の子でした」と彼女は言う。

東日本大震災では多くの命が失われた(photo by iStock)

「いつごろ憑依されたのですか?」

「その男の子は震災で亡くなった方(霊)たちの最後の方に出てきましたが、この子だけはちょっと違うんです。

あの10ヵ月間に大勢の死者が私の体に入りましたが、いわばそのトリを担ってくれた子でした。あまりにも地味だったので、住職さんも覚えていないかもしれませんね。

でも私は逆に、あの子がいたからこそ、一歩前に踏み出せたんです。私の体験を人に語ったり、似たような体験で困っている人に、私なりに提案できたらと思ったのは、その男の子がきっかけでした」

 

「魂の存在はあるんだと思わせてくれた」

「先ほどのおにぎりを食べた高校生とは別ですよね?」

「そうです。高校生の子があらわれた翌年ですね。あのおにぎりの高校生は、自分はもしかして、病気じゃないかもしれないと思わせてくれました。あのときのおにぎりの味だけは嘘じゃないと断言できたので。

ところが、その後で津波で死んだ人たちがドカドカと入ってきて、やりたい放題のことをするのを感じて、やっぱり病気なんじゃないかという思いが強くなっていたんです。

でも、あのおにぎりの高校生の件があるし、どうしたものかと迷っていた時に、やっぱり魂の存在というか死者の存在はあるんだと思わせてくれたのが、その12歳の男の子でした」

「どんな男の子だったんですか?」

「めっちゃいい子でしたよ」と彼女は満面の笑顔になる。

「それまでの人は、レイプだと言ってもいいほど、私の体を使って勝手放題のことをしたのですが、その男の子は一切そういうことがなくて、私に入った経緯もそれまでとはまったく違っていました」

経緯が違っている?

そんな私の疑問など吹き飛ばすほど言葉が踊っていた。