東日本大震災の津波は多くの霊体験を生んだ

「父より先に死んだぼくは、地獄に落ちますか?」12歳の祈り

津波が生んだ霊体験【後編】
宮城県の古刹、通大寺では、人間に憑依した死者を成仏させる「除霊」の儀式が今でも行われているという。前編中編に続き、東日本大震災の前後に約30人もの死者に憑りつかれた女性に、その体験を聞く。今回は、彼女の心を救ったという12歳の男の子のエピソードだ。ノンフィクション作家・奥野修司が、震災と津波が生んだ霊体験に迫る!

ほとんどが東日本大震災の津波に関係

前回、高校生の霊に憑依されたケースを語ってもらったが、実は彼女に憑依するのは人間だけではない、なんていうと驚かれるかもしれないが、実際、動物も彼女に憑依したと聞いて、私の頭の中は今にも爆発しそうなほど混乱していた。

そのことは落ち着いた頃にいずれ紹介するとして、高村英さんに憑いた霊は高校生を含めた数人以外、そのほとんどが東日本大震災の津波に関係している。

東日本大震災までは、誰かが彼女に憑依しようとしても、彼女自身、それを拒絶するか受け容れるかのコントロールはできていたという。

津波は多くの霊体験を生んだ

彼女はそれを「スイッチを切る」と表現したが、当時は自己流ながら、スイッチのオンオフができていたそうである。ところが、震災後はそれまでのようにコントロールができなくなった。

「なぜコントロールができなくなったのですか?」

彼女はしばらく考えてから「たぶん圧倒的な数のせいです」と言った。数とは、2万人といわれる津波で亡くなった死者の霊の数のことである。それをこんな喩えで説明した。

「300人入るホールを想像してください。生きている人間が舞台に立っている。そして亡くなった方たちがホールから私たちをおとなしく見ています。

そこへ津波が起きて、いきなり『生を奪われて苦しんでいる人(霊)たち』が大勢ホールに押し掛けてきます。

舞台の上にいる私を発見すると、おや、もしかしたら、あいつの体の中に入ったら救われるかもしれないぞ。ワンチャンス生きられるかもしれないぞと、一斉にざわざわと舞台の私に近づいてくるんです」

 

死者の「中継器」になっている

「どうして近づいてくるのですか?」

「私は自分のことをよく『チューナー』とか『中継器』に喩えています。

死者は魂のままだと何もできないのですが、たまたまこういう体質の私がいて、うまく体の中に入り込んでチューニングを合わせれば声を発することができます。肉体を得ることもできます。だから、みんな私の中に入ってきたがるんです。

あの時はとにかく人の声がすごかった。まるでスキャンダルを起こした芸能人が、マスコミの人に囲まれているかのように、私の後ろに津波で亡くなった人たちが長蛇の列を作って並んでいるんです。

でも、それ以前に7、8人が私の中に入っていましたから、その人たちを追い出さないと津波で死んだ人たちは入ってこれないんですね」

彼女によると、彼女の中に器のようなものがあって、憑依した霊で満員だと新たに憑依できないが、何人か出て行けば、入れ替わるように憑依できるそうだ。

「まるでトコロテン式ですね」と笑うと、彼女も笑った。