除霊を行っている通大寺の本堂

「おにぎりが食べたい」と言った男子高校生の霊。その思いとは?

津波が生んだ霊体験【中編】
宮城県の古刹、通大寺では、人間に憑依した死者を成仏させる「除霊」の儀式が今でも行われているという。前編に続き、約30人もの死者に憑りつかれた女性の体験を紹介する。今回は、彼女が自分の体験を人に語るきっかけとなった、17歳の男の子の霊のエピソードだ。ノンフィクション作家・奥野修司が、東北地方に伝わる「陰の文化」に迫る!

津波がもたらした多くの霊体験

この世には、科学で合理的に解釈できないことは掃いて捨てるほどある。

『魂でもいいから、そばにいて』(新潮文庫)でも紹介したが、津波で家族を喪った遺族が体験した不思議な霊体験もそうだ。彼らの多くは霊体験など信じていなかった人たちである。

 

いきなり予想外のことが起こり、しかも彼らは一様に、誰にも相談できずにひどく苦しんだと語っていた。それは、今の社会が、霊体験という不合理な現象を拒絶していることを意味しているのだろう。

東日本大震災では、津波でおよそ2万人の方が亡くなった

前回で紹介した高村英さんは、8年前に30人近い死者に憑依されたが、その現象を第三者から見ると、憑依された瞬間に人格が変わったように豹変する。

そのことで、彼女自身、もしからしたら自分は精神病ではないかと苦しんできた。そして8年という年月の間を悩みぬいて、ようやく自分の体験を他者に語る覚悟ができたという。

そのきっかけを与えてくれたのは2人の憑依体験だったというが、今回はそのうちのひとりを紹介する。

5、6人の魂が同時に憑依していた

「自分は病気なんじゃないか。みんなはそうじゃないと言うが、あのときに病院に行っていたら本当は病名がついたんじゃないか。

いやそうじゃない、亡くなった方たちの存在……幽霊はやっぱりいるんだ。いやいや、小さいときから当たり前のように思ってきたことが実は当たり前じゃなくて、わたしがそういう病気だったからなんだ……。

病気と、病気じゃないが行きつ戻りつしていたときに、病気じゃないかもしれないほうを信じてみようと思わせる子が2人いたのです。

どちらも男の子でした。この2人の存在がなかったら、きっとわたしはまだ病気に違いないと思いながら過ごしてると思います」

東日本大震災の津波で亡くなった霊が彼女の前にあらわれるまで、彼女には5、6人の魂が憑依していた。ただ、当時はコントロールできていたので、それほど面倒なことにはならなかったそうだ。

実はそれを聞いたとき、5、6人の霊というのは順番に彼女に憑依したと思い込んでいたのだが、どうもそうではなく、全員がいっぺんに入っていたそうである。その中の1人が、彼女を変えた「17歳の男の子」だった。