30人の死者に憑依された女性。5歳の男の子の魂に感じた罪の意識

津波が生んだ霊体験【前編】
奥野 修司 プロフィール

女性が抱く、死者に対する罪悪感

それにしても、8年も経って、なぜ自分の体験を語ろうと思ったのだろう。

 長丁場になりそうなので、私はリュックからICレコーダーを取り出した。すると彼女は、「録音しても音が入れ変わったり消えたりするので、何台かで録音したほうがいいですよ」と笑う。

「はぁ?」とため息を押し殺した私は、慌ててもう1台の録音機を取り出すというドタバタで取材が始まった。

東日本大震災を取材中、憑依されたという方に何人も会ったが、いずれも憑いた霊は1人である。30人もの“大量憑依”など聞いたこともない。

 

「たくさんの死者に体の中に入られるという体験は普通じゃないですよね。わたしも、本当は病気なんじゃないか、精神病なんじゃないかと、ずっと悩んできました。でも住職さんは、そうじゃないと言います。人助けだと言われる方もいます。

でも、こう言うと驚かれるかもしれませんが……、死者に入られる体験はわたしにとってレイプと一緒なんです。約1年間の間に30人近い人(霊)に憑かれ、わたしの体の中で暴れたり怒鳴ったり、この体をよこせ、生きかえらせろ、俺は死んでないとか……。

みんな好き勝手をしていました。わたしにすれば、あれはわたしの人権や尊厳を根こそぎ奪う行為でした。

わたしに入る人たちは、苦しいからわたしに助けを求めているのはわかります。でも、わたしにすれば彼らは加害者であり、わたしは被害者なんです。

でも、同時に死んだはずのあの人たちを再び死なすのですから、わたしは加害者でもあったのです。その罪悪感でずっと苦しんできました。それがはっきりとわかったのは5歳の男の子に入られたときでした」

5歳の男の子は、自分の体験を語るきっかけになったわけではないが、30人近くの憑依してきた霊の中でも、強烈な印象はないのに今もはっきり覚えているという。

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ただ、私自身は、憑依した霊に対してなぜ「罪悪感」を感じるのかと訝りながら、彼女がいる世界をとらえるには相当の時間がかかりそうな気がした。

「除霊」は死者を殺すこと?

そこで私は、「なぜ罪悪感なのですか?」とストレートに尋ねた。

「死者に入られるというのは、わたしの魂がわたしの体から外に出て、かわりに亡くなった人がわたしの体を乗っ取るようなものです。自分の体を取り戻すためには、入った人に死んでもらうしかありません。

住職さんの言葉で言えば『成仏する』ということなのですが、わたしが見ている世界では、『もう一度その人たちが死んでいく』のですから、わたしの中では殺したという感覚が残るんです」

彼女の口から「死んでもらう」とか「殺した」とか聞くとゾクッとするが、心の片隅で「自分は精神病と紙一重じゃないか」と思っている彼女にすれば、そういう強い気持ちでいないと、正常な精神を保てなかったのかもしれない。

「ここ7、8年、わたしが30人近くを殺したんだという罪悪感で苦しんできました。その一方で、それは悪いことではないし、彼らは死んでるんだから、わたしの体を取られるわけにはいかないと居直ってました。

そんなときに5歳の男の子が現れたのです。ああ、こんな小さな子供まで死なせないと自分の体を取り戻せないのかと思ったとき、現実を知ったというか、わたしの感情はグジャグジャになってしまいました」