東日本大震災以降、津波の死者にまつわる霊体験の報告は後を絶たない

30人の死者に憑依された女性。5歳の男の子の魂に感じた罪の意識

津波が生んだ霊体験【前編】
宮城県の通大寺では、人間に憑依した死者を成仏させる「除霊」の儀式が今でも行われているという。昨年10月の記事では、20~30人という大量の霊に取り憑かれた女性のケースを紹介したが、今回、その女性本人に話を聞くことができた。ノンフィクション作家・奥野修司が東北地方の「陰の文化」に迫る!

第一印象は、いたって普通の女性

緊急事態宣言が解除されて1ヵ月ほど経過した7月初旬、私は仙台駅から広瀬通り沿いにあるビルに向かっていた。そこである女性が待っているはずである。

ただ、私が知っているのは彼女の名前と、それに30代前半らしいということだけで、会ったこともないから顔も知らない。

もし行き違いになったらどうしよう、などと考えていると、はるか先のビルの前で、私のほうに向かって会釈する女性が見えた。

おしゃれで活動的で、見るからに明るそうな女性だった。名前は高村英さん。雰囲気は、近くのオフィス街に勤めていると言われても違和感がないほど普通の女性である。でも、彼女の体験は普通ではなかった。

彼女は、東日本大震災の翌2012年6月から2013年の3月までの約10ヵ月間、宮城県栗原市にある古刹、通大寺に通って金田諦應住職に「除霊」をしてもらった女性である。

宮城県・栗原市の通大寺

金田住職は、彼女の中に20人ほど憑依したと語っていたが、高村さんによれば、実際は30人近かったそうだ。

彼女が金田住職に「除霊」を受けたのは8年も前だが、これまでその体験を、金田住職を通して語ることはあっても、彼女自らが語ることはなかった。

 

死者がつないだ奇妙な縁

それがなぜ私と会うことになったかといえば、ある意味で、拙著『看取り先生の遺言』(文春文庫)で紹介した岡部健医師のおかげともいえた。

金田住職から彼女の連絡先を伺って電話を入れたときだった。いきなり彼女から「わたしは岡部先生と住んでいたことがある」と言われたときは、私の頭の中は「えぇー?」とパニック状態になった。いつ? どこで岡部さんと? それとも愛人?

あとで金田住職に電話を入れてみると、8年ほど前に何人かと一緒に彼女と話をしていたとき、「いつもわたしのまわりに飄々とした人がいる」という話をしたので、その場にいた全員が「岡部先生だ!」と反応したそうである。

そのとき彼女は名前までは知らなかったのだが、金田住職の部屋で岡部医師の写真を見たとき初めて、飄々とした男性が「岡部」という名前であることを知ったそうである。

霊の存在を信じている人は、彼女は岡部医師の霊(魂)がそばにいるのを感じていたと理解したのだろうが、そこまで信じていない私には、彼女の言葉をどう理解していいかまったくわからなかった。

いずれにしろ、私が彼女と会うことになったのは、たまたま岡部医師の本を書いたのが私だったということのようである。