文科省元幹部「裏口入学事件」裁判で見えてきた意外な真相

これは本当に「事件」だったのか
大田 和博

請け負った案件を自ら断る

検察が「佐野被告が臼井被告の請託を受けた」と認定したのが、17年5月10日に東京都港区の精進料理店「D」で開かれた佐野、臼井、谷口被告による会食だ。3被告は前年9月にも同店で会食し、検察によると臼井被告はこの時、東京医大の一般入試の一次試験で不正加点している事実を佐野被告に伝えたとされるが、佐野被告はこれを明確に否定している。

同店で2度目となる会食は約2時間半に及び、勘定は谷口被告が一旦まとめてカード払いし、佐野被告は後日、自分の勘定を谷口被告に支払った。臼井被告は会食の趣旨について「佐野被告の次男が17年2月の東京医大の一般入試で不合格だったので、佐野被告にその成績を伝え、来年頑張るよう励ますつもりだった」と主張する。

実はこの会食、その一部始終を谷口被告がボイスレコーダーで隠し録りしていた。音声ファイルを押収した検察は「会食の際に請託があったことを示す唯一の客観証拠」として、3被告の具体的な発言内容を冒陳に数多く書き込み、自らに都合の良い“解釈”を入念に書き足している。

この音声ファイルは第2回公判(7月20日)の際に法廷で流され、これを受けて佐野、谷口両被告の弁護人による本人尋問が行われた。筆者もこの公判を傍聴し、冒陳文章だけでは伝わらない会話の具体的なニュアンスを感じ取れた。その印象も併せてお伝えしよう。

 

さて、16年度のブランディング事業支援対象校に落選した東京医大理事長の臼井被告は、17年度こそ確実に選定されようと考えた。そこで会食の際、佐野被告に「17年度ブランディング事業申請の必要書類を文科省に提出する前に、東京医大職員が同省の担当課の担当者から書類の記載について指導を受けたい」と持ち掛ける。

これに対して佐野被告は、1.文科省の職員が事業計画書の記載について助言・指導することはできない、2.ブランディング事業の制度趣旨や、東京医大の前年度の不選定理由は説明できる、3.同事業の制度趣旨について、同大の問い合わせに応じる文科省の担当課の担当者を紹介する――などと回答。記載についての助言自体は、公募事業の企画書の作成・助言を数多く手掛けているTMCの取締役である谷口被告が引き受けることになった。

「公募事業に関して臼井被告に話したことは、制度の趣旨をよく理解すること、日本一、世界一を目指すこと、分かりやすく書くことなどで、一部に大袈裟な表現があったにしても、それらは事業趣旨に関する説明など一般的事項に過ぎなかった」(佐野被告)

法廷に流れる音声を聞いた筆者の印象も、佐野被告の主張と何ら変わらない。佐野被告の声からは、民間人の臼井被告に正しく理解させようという熱意こそ伝わるが、内容はあくまでも一般論だ。

ところが、これが検察の手にかかると「東京医大が考えている事業計画案について意見交換しながら、同大の案が制度趣旨に沿っているかどうか示唆する体制を取れば、事業計画書の記載等について助言・指導できる旨言った」「東京医大の応募テーマである低侵襲医療(手術や検査に伴う痛みや発熱、出血を極力減らす医療)に係る研究計画を具体的に踏まえながら、事業の制度趣旨を敷衍して自ら助言した」となる。「助言・指導」を何とか印象付けようとする検察側の意図が滲み出る。

会食翌日の11日、17年度ブランディング事業の公募関係書類を入手して公募要項を確認した佐野被告は、「文科省の担当部局が各大学の問い合わせに対応するのは電話だけで、大学職員と面会することはない」旨の記載を目にした。

同日夕、佐野被告は件の記載部分に青色マーカーを引いた公募要項を持参して東京医大近くのホテルに出向き、臼井被告と面会。要項の該当部分を示して、1.約束していた担当者の紹介はできなくなった、2.自分もこの件で大学側と会うことはできず、書類を見ることはできない――などと説明し、臼井被告も了承した。

つまり佐野被告は、請け負った担当者紹介を翌日に自ら断っていたのだ。検察はこうした経緯を認めながらも、「佐野被告は、今後は谷口被告を介して東京医大側に対する助言・指導を行うことにした」との意味不明の一文を冒陳に挿入した。