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元海自特殊部隊員が語る「尖閣諸島、北朝鮮以上の、この国の危機」

最前線の自衛官は国のために死ねるのか

尖閣諸島における自衛隊特殊部隊と敵国特殊部隊との攻防、そして北朝鮮における自衛隊特殊部隊による日本人拉致被害者の奪還作戦――伊藤祐靖氏(55歳)が書いた新作小説『邦人奪還  自衛隊特殊部隊が動くとき』(新潮社刊)が話題を呼び、すでに4万部のベストセラーになっている。

75回目の終戦記念日を終えたいま、元自衛隊特殊部隊の作家・伊藤氏と、東アジア取材の第一人者である近藤大介が、日本とアジアの「いまそこにある危機」について、語り尽くした――。

尖閣上陸作戦の圧倒的なリアリティ

近藤: コロナ禍に揺れる2020年夏、奇妙な小説を世に出しましたね。私はかれこれ30年以上、東アジアの取材を続けていますが、伊藤さんの『邦人奪還』を読んで、いままで生きて来てよかったとさえ思いました。

伊藤: それ、どういう意味ですか?

近藤: 普段、ノンフィクションの世界に身を置いていると、フィクションを面白いと思えなくなるんです。「事実は小説よりも奇なり」と言うでしょう。例えば、香港でデモを取材すると、若者たちが「生の言葉」を投げかけてくる。そんな中で香港を題材にした小説を読んでも、まったく感興が沸かないわけです。

ところが、『邦人奪還』の表現のリアルさといったらない。自衛隊の特殊部隊が潮に流されながら尖閣諸島に向かう途中、深夜の海中温度は31度、月自体は赤く見えるが月の光は青く見える、夜明けは天文薄明、航海薄明、市民薄明の順にやって来る……。

そして魚釣島に隠密上陸したら、厚さ1mmのワンピース型ウエットスーツに身を包み皮膚が露出した前頭部で付近の状況を確認する、最初に感じたのは島の匂い、虫、落ち葉、ヤギの排泄物、コケ……。こんなリアルな小説、ノーベル文学賞作家にも書けません。

伊藤: それは、ありがとうございます。私は2007年に退官するまで、海上自衛隊の「特別警備隊」に所属していましたから、ああいう部分に関しては、誰かに聞いた話ではなく、自分自身の肌感覚があるんですよ。すべて自分の体験に基づいているわけです。魚釣島には、褒められることではありませんが、2012年に実際に上陸しましたし。

近藤: 伊藤さんは、自衛隊初の特殊部隊の創設に携わり、42歳までいらしたんですよね。2年前に出版された自伝『自衛隊失格 私が「特殊部隊」を去った理由』(新潮社刊)も、合わせて拝読しましたが、「軍国ばばあ」と呼んでいた国粋主義者の祖母、蒋介石中華民国総統の暗殺を命じられていた陸軍中野学校7期生の父親……。ものすごい家庭環境に育ったんですね。

私は伊藤さんと同世代で、これまで様々な取材現場を経験してきましたが、伊藤さんの方が10倍以上、人生経験を積んでいる気がしてきます。

 

伊藤: ハハハ、それはどうですかね。「特別警備隊」での体験を小説化すると言っても、もちろん守秘義務がありますから、全部をありのままに書いたわけではありません。しかし雰囲気とか心理描写とか、そういったものは守秘義務とは関係ありませんから、自由に描かせてもらいました。