2020.08.18
# アメリカ

一つの「失言」で発言の場を奪われる…「キャンセルカルチャー」の危うい実態

「ピンカー除名騒動」の背景
ベンジャミン・クリッツァー プロフィール

社会心理学者のジョナサン・ハイトは、この「公正と公開討議についての書簡」の署名者のひとりであり、保守的な意見の価値や重要性を認める立場から、アメリカにおける言論の自由の抑圧をいちはやく問題視していた人物である。アメリカの大学から「視点の多様性」や「政治的意見の多様性」が失われていることを危惧したハイトは、その問題に抗うべく、同じ問題意識を抱えている学者たちを集めて2015年に「ヘテロドックス・アカデミー」というグループを立ち上げた。

ヘテロドックス・アカデミーでは、アカデミアにおける言論の自由が抑圧された事例が詳細に記録されており、また、「なぜ異なる意見に対する不寛容の問題がここまで深刻になったか」に関する社会学的な分析や心理学的な分析などが、様々な学者によって投稿されている。

以下では、ヘテロドックス・アカデミーやハイトによる問題の指摘と分析を参考にしながら、ピンカーに対する除名請求でもあらわれた「キャンセル・カルチャー」と「ノー・プラットフォーミング」の問題について紹介したうえで、アカデミアにおける言論の自由の意義を再確認する。

 

「キャンセル・カルチャー」とは何か

ピンカーに対する公開書簡でも行われたような、著名人の過去の言動やSNSの投稿を掘りかえして批判を行い、本人に謝罪を求めたり地位や権威を剥奪するように本人の所属機関に要求したりするような振る舞いは、欧米では「キャンセル・カルチャー」と呼ばれて問題視されている。

また、社会問題に対する意識が高い=目覚めている(woke)若者たちのことは「ウォーク」と呼ばれてもいる。キャンセル・カルチャーは特にウォークたちの間で広がっており、2019年にはオバマ元大統領も懸念を表明した。

「もしわたしが、あなたが物事を正しく行なわなかったり間違った動詞を使った、とツイートしたりハッシュタグを付けてシェアしたりすれば、わたしはいい気分でくつろぐことができる。わたしの意識がどれだけ高いか、あなたに対して示すことができたからだ」と、オバマは皮肉った表現をしている

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