「表現者」羽生結弦が作り出す空気を伝える
世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの影響で、東京オリンピックをはじめ、国内外ほとんどすべてのスポーツイベントが延期や中止、縮小などの変更を余儀なくされている。
そんななか、多くのアスリートが自粛中でもできる自身のトレーニング方法を紹介したり、普段は明かさないプライベートを配信したりと、リモート社会に少しでも貢献できるような活動をここ数ヵ月間重ねている。
フィギュアスケートの羽生結弦もその一人だ。
5月には、日本スケート連盟の公式ツイッターを通じて、自身の歴代プログラムの振り付けを披露。動画を再生したファンからは「力をもらえた」「ステイホーム頑張ります」「羽生結弦さんの存在そのものが明るい未来の希望」といった明るいリプライが相次いだ。
さらに羽生は7月、ISU(国際スケート連盟)が新設した「スケーティングアワード」で初代の最優秀選手を受賞するなどファンに明るいニュースを届けている。コロナ禍でも存在感と影響力の高さを示したアスリートの一人だろう。
「実績はもちろん誰もが認めるところですが、羽生結弦選手はアスリートであると同時に表現者だと僕は考えています」
そう語るのは、スポーツニッポン新聞社の小海途良幹(こがいと よしき)カメラマンだ。羽生を追いながら、その表現方法やプログラムに組み込まれた意図、時にはファンの反応まで含めた情報を自分なりに分析し、あらゆる構図の写真を撮り続けてきた。
その結果、羽生の生き生きとした表情や感情を切り取った写真はいつしか「神写真」と称され、小海途カメラマン自身も「神ラマン」などと呼ばれるようになった。
その「神ラマン」が、快心のショットだと言う1枚がある。今年2月、男子フィギュアで史上初のスーパースラム(ジュニアとシニアの主要国際大会を完全制覇)を達成した四大陸選手権で撮影されたものだ。

「シャッタースピードを落として幻想的に仕上げられたら」とスピンの最中を狙い、意図通りの瞬間をとらえた「してやったり」の一枚だ。
「羽生選手を背景に溶け込ませることで、『表現者』である彼が作り出す会場の空気を伝えたかった。彼の演技は点数や数字に反映されるのは当然ながら、必ず何かを人々の心に訴えます。そこが彼を羽生結弦たらしめている部分だと感じています」
そんな意図のある「神写真」を撮れるようになるまでには、様々な試行錯誤があったという。
小海途カメラマンが本格的なカメラに触れたのは大学時代だという。バックパックを背負って一人旅をしていた頃に、お世話になった先輩にニコンのボディとレンズを譲ってもらった。
「それからは必ずカメラを持って旅に出ることになりました。当時はポジフィルムでしたから、持ち運びと保管が大変でしたけど。今はデジタルになって楽になりましたし、旅には必ずカメラを持っていきます」

旅行が趣味で学生時代だけで十数ヵ国を訪れた。世界の街角でカメラ片手に研鑽を重ねた小海途は、動の中の一瞬の静を切り取るスポーツカメラマンを志して、スポーツニッポン新聞社の扉を叩く。