「その根拠はなんだ?」
この問いかけを、私は多くの選手たちにしてきた。とくに私が育てた古田敦也、矢野燿大、嶋基宏といったキャッチャーたちには厳しく問うてきた。
守備を終えてベンチに帰ってくる彼らに、
「なぜ、あの勝負球を要求したんだ」
「どうして、もう1球外さなかったんだ」
「あのコースに投げさせた理由はなんだ」
……など、1球の根拠をしつこいくらいに問いただした。
キャッチャーの仕事は、ピッチャーの投げる1球、1球を指示して、試合を実際につくっていくというものだ。まるで、ドラマの脚本家のようなものだ。
その筋書きを書く人間が、根拠もなく、なんとなく真っ直ぐを投げさせました、カンであのコースにしましたといった姿勢で野球に取り組んでいるのだとしたら、無責任以外の何物でもない。
新人キャッチャーたちは最初のころは、私の問いかけに口ごもり、明確な理由を答えられないことも多い。
「根拠もなくサインを出すなんて、無責任なことはするな!」と、私に叱り飛ばされることもよくある。
しかし常に近くにいる私に「根拠」を問い詰められているうちに、彼らも漫然とプレーをすることがなくなり、考えて取り組むようになってくる。
常に根拠を意識して行動する人間は、漫然と行動する人間よりも確実に成長していく。これは野球にかぎらず、どのような分野のことでも同じだろう。