長年、プロ野球の監督として選手やコーチたちを育成してきたが、個々の能力を伸ばそうというときに、リーダーにとってもっとも必要なのは、「指導」ではなく「問いかけ」だ。
指導者の立場になると、人は育成という名のもとに部下たちに「こうしなさい」、「こうすべきだ」と口を出したがるものだ。プロ野球のコーチにも、指導することが仕事だと勘違いしているものもいて、常にあれこれと技術指導をしたりするものがいる。
コーチの立場となれば、まわりから有能なコーチと見られたいという欲求を誰もがもつものだ。自分がこれまで培った技術論などを披歴したいという欲求もある。それが過剰な口出しや指導となって表れる。こんなに親身になって高度な指導をしている自分を、まわりにアピールしたいという気持ちが働くのだ。
しかし、こうしたコーチは確かに熱心ではあるが、選手をだめにするコーチだ。私から言わせれば、「名コーチ」などではなく、「名コーチと呼ばれたいコーチ」でしかない。
まず、選手が求めてもいないのに、手とり足とり教えることは、その選手の自主性や考える力を奪ってしまうことになりかねない。誰かからの指示を待っているような人間ではなく、自分で問題意識をもち、自ら考え行動するものが伸びていく人材だ。指導者はまず、個々の人材の考える力を伸ばさなければならないのだ。
また、選手のほうに問題意識が生まれていないのにいくら指導をしても、相手はこちらのアドバイスを理解し、吸収することがなかなかできない。