「世界的知性」スティーブン・ピンカーが、米国「リベラル」から嫌われる理由

「学会除名騒動」の背景
ベンジャミン・クリッツァー プロフィール

実際には、ピンカーやほかの進化心理学者たちが「生まれ付きのことだから仕方がない」「自然なことだから正しいことだ」とは主張していないとしても、性差別や人種差別について進化心理学に基づいた説明を行なうこと自体が、差別をおこなう個々人の責任をうやむやにして、差別を生み出す文化や社会制度の問題を矮小化する行為である、と見なされてしまうのだ。

特に、ピンカーには『人間の本性を考える』のなかで人間の男女間の生物学的差異を認めない「ジェンダー・フェミニスト」たちに苛烈な批判を行なってきた経緯がある。

フェミニストたちの一部は「レイプなどの性暴力は生物学的な性欲に基づく行為ではなく、社会的に構築された家父長制に由来する支配欲に基づいた行為である」といった理論を主張するが、ピンカーはその主張に反論して、生物学的な要因は性暴力の重大な原因であると論じたのだ。しかし、ピンカーの反論も、彼女たちには「生物学に基づいて性暴力を正当化する言説だ」としか受け止められなかったのである。

 

「合理的な楽観主義」が批判される理由

ピンカーの唱える「合理的な楽観主義」と、その主張を大々的に展開した『暴力の人類史』や『21世紀の啓蒙』も、現在の社会で起こっている問題を重要視している活動家たちとアカデミシャンたちからはかなり評判が悪い。

「現在は昔に比べて良くなっており、暴力も差別も昔に比べてマシになっている」と主張することは、「昔に比べてマシになっているのだから、現在起こっている暴力や差別の問題は深刻なことではない」と言っているようにも聞こえかねない。

昨今のアメリカでは人種に関する問題と性別に関する問題がとりわけ社会的注目を集めており、「現代社会の差別問題は非常に深刻だ」というイメージはかつてなく強くなっている。そのために、「いま」の良い面を強調するピンカーの主張に対しては、「いま起こっている人種差別や性差別の問題は大したことがない、と思っている」という疑いがかけられてしまうのだ。

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