「世界的知性」スティーブン・ピンカーが、米国「リベラル」から嫌われる理由

「学会除名騒動」の背景
ベンジャミン・クリッツァー プロフィール

暴力の人類史』や2018年に出版された『21世紀の啓蒙』では、歴史学や人類学をはじめとする様々な学問分野の膨大な資料を参考にしながら、「データを見てみれば、現在の世界は過去に比べて着実に進歩しつづけている」という主張が展開されている。

多くの人々がなんとなく抱いている「21世紀になっても戦争や紛争は起こり続けているし、犯罪も絶えないから、世界は特に平和になっているわけではない」というイメージや「科学技術の発展は新たな問題を生み出しており、環境問題も悪化させているため、人間は昔に比べて特に健康になったわけでもなければ幸福になったわけでもない」という考え方を、大量の資料や統計に基づいたデータによって否定していることが、これらの本の特徴だ。

そして、世界が昔に比べて平和で幸福になった理由として、科学や民主主義の発展を挙げて、その背景にある合理主義や啓蒙主義の重要性を強調するのである。

〔PHOTO〕iStock
 

進化心理学は差別を正当化する?

幾多の著作で進化心理学や合理的な楽観主義の考え方を広めてきたピンカーであったが、彼はその主張のために、多くの人からの不評と敵意を買ってきた経緯もある。そもそも、進化心理学の前提にある「進化論」は欧米の宗教的な保守からは批判の対象となっている(ピンカー自身も無神論者だ)。

しかし、ピンカーを批判するのは保守や右派だけではない。むしろ、その大半がリベラルや左派である、同業のアカデミシャンや学生たちからの批判を受け続けてきたのである。

進化心理学の魅力のひとつは、わたしたちが抱く 美的感覚や恋愛感情などのポジティブな心理状態から、性差別や人種差別などの社会問題をはじめとしたネガティブな物事まで、人間が関わることの大半について進化論や生物学に基づいた説明を行えることにある。

しかし、進化心理学で社会問題を扱うことには、「文化や社会制度が原因ではなく、生まれつきの傾向が原因であるのだから、批判しても仕方がない」と現状維持をうながしたり、「自然なことなのだから、正しいことなのだ」と正当化したりする、というイメージがつきまとう。

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