「世界的知性」スティーブン・ピンカーが、米国「リベラル」から嫌われる理由

「学会除名騒動」の背景
ベンジャミン・クリッツァー プロフィール

こちらの書簡にも、アカデミアの内外から100名以上の人が署名を付けている。そのなかには言語学者のノーム・チョムスキーや政治学者のフランシス・フクヤマ、J.K.ローリングやサルマン・ラシュディやマーガレット・アトウッドなどの小説家たちをはじめとした多数の著名人が含まれており、こちらの書簡のインパクトを大きくしている。

ノーム・チョムスキー〔PHOTO〕Gettyimages
 

スティーブン・ピンカーが行ってきた主張

なぜLSAは公開書簡を発表したのだろうか。それには、ピンカーのこれまでの経歴が深く関わっていると思われる。

ピンカーの専門は言語学や認知科学であるが、彼は影響力のある一般書を多数出版してきたことでも有名だ。1990年代から2000年代に出版されたピンカーの著作は、当時はまだマイナーなものであった「進化心理学」の考え方を多くの読者に知らしめた。

また、2010年の著作では、統計やデータに基づいた「合理的な楽観主義」が論じられている。そして、ピンカーが発表してきたこれらの著作こそが、彼が「差別的」であり「社会問題に対して鈍感で無頓着」であると一部の層から批判される原因にもなっているのだ。

最近では日本でもすっかり定着した感のある「進化心理学」であるが、そのような考え方が存在することや、その考え方の魅力を世に広めた草分け的存在ともいえる著作が、ピンカーが1997年に出版した『心の仕組み』と2002年に出版した『人間の本性を考える――心は「空白の石版」か』である。

後者の本では、進化心理学という考え方の画期性を強調するために、「人間の思考様式や行動パターンなどは生まれた時点ではなにも決定されておらず、空白の石版に文字が書き込まれるように、教育や文化や社会制度などの後天的で環境的な要因によって身に付けられていくものである」という、それまでの社会科学で当然のものとされていた考え方を大々的に否定している。

そして、人間の思考や行動には、進化の歴史によって培われた先天的な傾向が存在すること、教育や文化などに影響される前から生まれつき備わっているこの特徴は、大人として成長した後にも人間の振る舞いや考え方に根強い影響を与え続けることが、強調されているのだ。

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