スティーブン・ピンカー氏〔PHOTO〕Gettyimages

「世界的知性」スティーブン・ピンカーが、米国「リベラル」から嫌われる理由

「学会除名騒動」の背景

アメリカ言語学会への公開書簡

日本でもよく知られた言語学者・認知科学者であるスティーブン・ピンカーをめぐって事件が起きた。

2020年7月初頭、アメリカ言語学会( Linguistic Society of America = LSA)に所属する会員たちから、同学会に所属するピンカーを、学会の「アカデミック・フェロー」および「メディア・エキスパート」の立場から除名することを請願する公開書簡が発表されたのである。この書簡には、博士課程の学生や助教授・教授を中心とした600名以上の会員たちの署名が付けられている。

スティーブン・ピンカー氏〔PHOTO〕Gettyimages
 

公開書簡では、LSAが2020年6月に「人種的な正義」に関する声明を発表したことを受けて「ピンカーのこれまでの振る舞いはLSAの声明と矛盾するものである」と指摘されており、彼がLSAのフェローの地位にふさわしくない、と論じられている。ピンカーには差別の問題を軽視し続けてきた経緯があり、彼の振る舞いには「人種差別や性差別の暴力に苦しむ人々が挙げてきた声をかき消すようなパターンがある」と、公開書簡には記されているのだ。

……ひらたく言うと、ピンカーは差別の問題を矮小化して、差別に反対する運動の効果を損なうような主張を続けてきた、ということがこの公開書簡では主張されているのである。

公開書簡は発表された直後から話題になり、言語学者たちやピンカーの関係者をはじめとした様々な人々が書簡に対する賛成や反対の声を発表して、論争となった。特に注目すべき反応は、アメリカの月刊誌「ハーパーズ・マガジン」に発表された「公正と公開討議についての書簡」だ。

こちらの書簡は、厳密にはLSAの公開書簡に対して直接的に応答する目的で発表されたものではないが、言論の自由や開かれた討論、異なる意見に対する寛容の価値を強調するその内容のために、LSAへの公開書簡に対する反論に等しい議論として見なされるようになった。