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マクスウェルの悪魔復活! ミクロの世界では時間が戻った!

量子力学は宇宙の絶対法則も破る?

自然界の多くは対称性をもっているのに、なぜ時間は一方向にしか流れないのか? それは古来、物理学者たちを悩ませてきた究極の問いです。

ケンブリッジ大学宇宙理論センターでホーキング博士に師事し、薫陶を受けた若き物理学者が、理論物理学の最新知見を駆使して、この難問に挑む思考の旅へと発ちました。

前回では、「時間の矢」を生むエントロピーという概念に対抗して天才マクスウェルが送り出した悪魔が、150年かけてついに敗れ去ったところまでをお話ししました。今回は、なんと"倒されたはずの悪魔が復活!"という驚きの最新トピックをご紹介します!!

なんと!悪魔が復活した!!

前回の記事では、秩序から乱雑へ向かうエントロピーという概念を確立するための科学者たちの努力と、マクスウェルからの挑戦状「マクスウェルの悪魔」についてお話ししました。

そして、1961年、アメリカのランダウアーによる、「情報の消去」という仕事をする際につかわれるエネルギーのためにエントロピーが増大するというアイデアが、日本の鳥谷部祥一、沙川貴大らによって実証され、エントロピー増大の法則は無事に守られたのです。

しかし、つい最近、実にアッと驚くようなニュースが飛び出したのです。

2019年、モスクワ物理工科大学(MIPT)の量子情報物理学研究室で筆頭研究員をつとめるゴーディ・レソビク博士は、量子コンピュータの技術開発を進めているなかで、ランダムになっていた量子ビットの状態が秩序ある状態に逆戻りする現象を観測したと述べました。つまり、「マクスウェルの悪魔」が復活したということです!

第3の文字を使う量子コンピュータ

まず、量子コンピュータについて、ごく簡単に説明しておきましょう。最近はニュースなどで話題にのぼることも増えましたが、一言でいえばそれは、ミクロの量子世界でみられる「状態の重ね合わせ」を利用して、複数の計算を並列にやってしまおうというものです。

状態の重ね合わせとは、「シュレディンガーの猫」の例でいえば、「生きている」「死んでいる」という2つの状態を同時に実現していることです。1匹の猫で複数の状態を同時に表すことができるので、それぞれについて、個別に並列的に計算を実行できます。したがって計算が飛躍的に速くなり、効率化されるという考え方です。

【図】生きている状態と死んでいる状態が同時に実現「シュレディンガーの猫」の例でいえば、「生きている」「死んでいる」という2つの状態を同時に実現

従来のコンピュータは、一見複雑な情報のやりとりをしているように見えますが、基本的には電気のオン/オフという2種類の電気信号だけで全ての情報が処理されるので、0と1という2種類の数字だけの羅列で表現される2進法です。

しかし、量子コンピュータのマス目には、0と1のほかに、「0でもあり1でもある」と書かれたマス目もあるのです。2つの数字を合成したものなので、文字にするならば「φ」のような感じでしょうか。この文字は薄い色で書かれていますが、ある合図によって濃くなって、確かな数として0か1のどちらかが浮かび上がります。「シュレディンガーの猫」の例でいえば「観測する」という行為が合図にあたります。

【図】第3の数字量子コンピュータには「0でもあり1でもある」と書かれたマス目もあり、合図によって0か1のどちらかが浮かび上がる

このような「第3の文字」も使うことで、従来型よりも計算がべらぼうに速くなる、というのが、おおまかな量子コンピュータのからくりについてのイメージです。グーグル社の研究者らが量子コンピュータを用いて、従来のスーパーコンピュータで1万年もかかる計算をたったの3分20秒でやってしまったというニュースは、記憶に新しいところです。

ただし、工業的に実現するにはクリアしなくてはならない問題が多々あり、まだまだ試作段階です。ところがその量子コンピュータをつかった実験で、驚くべき現象が観測されたと報じられたのです。